第2話『夢の中で』
気がつくと、見たことのある場所にいた。
そこには、言葉では表せないほどの綺麗な女性が佇んでいる。
光の粒子をまとったような白い髪。
原色のインクを落としたような綺麗な青い目。
しかし、どことなく幼く感じる美しい顔。
彼女は、暖かい微笑みを向けている。
その笑みは、見るもの全てを安心させるかのようだ。
「調子はどうですか? この世界にもだいぶ慣れてきましたか、リュウ・ルークさん?」
なるほど、この世界での俺の名前知ってるってことは見てたんだな?
「おかげさまで、とても充実した日々を送らせてもらってますよ。それにしても、久しぶりだな?」
「本当はもっと早く会いたかったのですが、私の力も思ったより弱まっているようです……」
自分の手をにぎにぎしながらそう呟く女神は、どことなく落ち込んでいるようだ。
「それはそれとして、今回は新たな力を授けに来たのです! 本当なら最初に渡したほうがよかったのですが、相応の魔力量がなければ扱えない代物でして……。ですが、今なら使えるはずです! きっと役に立つので、受け取ってください」
女神はそう言って俺の顔を手で覆い、
「光の力よ! かの勇者に龍神の加護を授け、世界を正しく導きたまえ!」
その瞬間、女神の手が淡く輝き俺の眼に激痛が走る!!
「な!!!?? –––––ッあああぁぁぁ!!!!!」
「我慢してください!この痛みに耐え切ってこそ、儀式は完成するのです!」
そんなこと言われても!!
ヤバい! スゲェ痛い!! こんな痛いの!?
「はぁ……はぁ……はぁぁ……」
「だ、大丈夫ですか……?わかりますよ、私の時も転げ回りましたもん……」
「……こ、これ夢の中か何かだよな?! なんでこんなに痛いんだっ?!」
痛みに悶え、転げ回りながら女神にそう問いただす。
「それは肉体に直接関係することだからです。今あなたに授けたのは“
目が見えなくなったわけではないと知り安堵しつつ、俺は恐る恐る目を開いた。
………何も変わってなくね?
「その龍眼?ってのは、どうやって使うんだ? 何も変わってないんだが–––––」
「–––––その眼に魔力を込めれば使えます!ですが、ここでは使えませんよ? ここはあなたの意識、つまり夢の中です。目が覚めたら使ってみてください」
こんなクソ痛ぇのに目が覚めないって、それ大丈夫なのか……?
「それと–––––これからは毎晩ここで、この世界についての勉強をしますよっ!ここでは時間の流れが違うので、より多くのことを学べるはずですからっ!」
そう言って女神がムンっと胸を張ると、その動きに合わせて控えめだが綺麗な形の胸が動く。
女神と毎晩会えるのはめちゃくちゃ嬉しいが、勉強は嫌いなんだよな……。
「わかった、わかったからっ!そんな目で見るのはやめてくれっ!!ったく、しょーがねぇなぁ……よろしく頼むよ」
「–––––はい、お願いされましたっ♪それでは、今日はこの辺でっ!またあなたの夢の中でお会いしましょう♪」
女神がそう言うと、俺の意識がだんだんと遠のいていった。
–––––
目が覚め、ふと窓を見ると外はまだ日が昇りきってなく、ぼんやりと明るい。
俺は寝室を出て、顔を洗いに洗面所へ行った。
足場を引っ張り出し、その上に乗って顔を洗う。
顔を洗い鏡を見ると、子供の幼い顔が映っている。
最初は不思議に思ったりもしたが、もうすっかり慣れた。
俺はそこで、女神にもらった龍眼が気になったので使ってみようと眼に魔力を込めた。
すると、一気に魔力を吸い取られる感覚が、俺を襲う。
(ヤバイな……このまま使っても、せいぜい30分が限度か……)
そう思いながら、ふと鏡を見ると、そこにうつる俺の紅色の目が、淡く赤い光を帯びていた。
その眼は人の目ではなかった。どこかで見たことのある眼。
思い出した! 前世の漫画で見たことがある! そうだ、これはドラゴンの眼にそっくりだ!
これが龍眼か……。
迂闊に人には見せれないな。化け物扱いされそうだ。
俺が魔力の供給をやめると、いつもの紅眼に戻った。
かなりの魔力を消耗したが問題ないだろ。
俺は普段着に着替えて、外へ出た。
そこには、素振りをしているルシフェルがいた。
「お、リュウじゃないか! どうしたんだ?こんな朝早くに」
「おはようございます、父さん! 僕も父さんみたいに強くなりたいんだ! だからね、その、どうやったら強くなるか教えて欲しいんだぁ〜」
これぞ必殺 息子のおねだり!
君も父親なら、この力には抗えまい!
「うーん……わかった! じゃあまずは、これを使って基本的な型と体力作りだな! 俺の教えは厳しいぞ! しっかり付いて来い!」
あーらら、すっかり張りきってらぁよ。
お手柔らかにお願いしますよ。
俺はルシフェルから渡された木剣を使って素振りを始めた。
やっぱこの体だと、結構重く感じるなぁ。
でもまあ、あまり問題はないけどね。
「おぉ、なかなかいい動きをするな! でもまだ甘い。左手にもっと力を入れろ。そうすればもっと良くなる」
ルシフェルはなかなか教え方が上手い。
どうすれば良くなるのか、ちゃんとわかりやすく教えてくれる。
しばらくして、アインスから朝ご飯だから風呂に入れと言われ、ルシフェルと二人で風呂に入った。
相変わらずルシフェルの体は凄い。
歴戦の傷痕に凄まじい筋肉。この世界にはこんな人が多くいるのか。それともルシフェルが凄いのか。
ルシフェルは、《ハンター》と呼ばれる職業についていてると言っていた。
街にあるギルドから依頼を受けては、魔物などの討伐をしているそうだ。
ハンターは冒険者とよく似ているが少し違うらしい。
冒険者は、ギルドの依頼で雑用のようなものから、魔物の討伐や狩猟までできるが、ハンターは討伐と狩猟が主なんだそう。
風呂から上がって食事をすませると、ルシフェルは街へと出かけていった。
メイドの募集の手続きをギルドでするようだ。
職を探す人の目に止まりやすい場所といえば、ギルドが一番らしい。
俺は庭で、さっそく龍眼を使った。
そのまま辺りを見回してみる。
すると、ある変化があった。
物が通常よりもはっきり見え、遠くまで手に取るようにわかる!
村の畑で野菜を収穫している人たちの手元もはっきり見える。
それだけじゃない。
空を飛ぶ鳥の次の動作や行動も手に取るようにわかる。
(凄い……これが龍眼の力か!)
だけど、魔力の消費量が多いな。戦闘での長時間の使用は難しそうだ。
もっと魔力総量を増やさなければ。
とりあえず俺は庭で、魔法の特訓をすることにした。
両手で、それぞれ違う魔法を生成、発射を繰り返す。
昨日は、同じ魔法を30回したところで気絶した。
だが今日は違った。
別々の魔法を両手で使っているのだから、15回で気絶するはずが、それ以上いける気がしたので15回目を撃った。
だが、気絶しなかった。それどころか、あと2、3倍はいけた。
50近くになったところで、言い知れぬ疲労感が俺を襲った。
そう、これだ。これが次の消費で魔力切れを起こす合図だ。
俺はそこで魔法の訓練を終了した。
俺の読みが正しければ、明日は今日の3倍はいけるはずだ。
この調子で増やそう。限界突破だ!
日が沈む頃になって、ルシフェルが帰ってきた。
募集の手続きは無事完了したようだ。
–––––––––
その日の夜。
俺はベッドに入って眠りについた。
ふと気がつくとあの場所にいて、目の前には女神がいた。
「こんばんは。どうやら、魔力総量の増やし方がわかったようですね! 今日教える予定でしたが、気づいたのなら手間が省けました。今日は、この世界にいる生き物について学びましょう」
女神は宣言通り、本当に俺に色々と教えてくれるようだ。
この世界の生き物か……すごく興味深いな。
「まず、この世界には様々な生き物が住んでいます。高い索敵能力と攻撃力、俊敏力を持ち、戦闘に長けた
「……一応聞くけど、それはどうしてなんだ?」
「これは約200年前、まだ闇の龍神が世界を支配しようとしていたときのことです。かの龍は、天性種の力を手に入れようと試みましたが失敗に終わりました。理由は、天性種の能力“神をも超越する力”に返り討ちにあったのです。まぁ、倒すことはできなかったんですがね」
おぉ!闇の龍神を返り討ちにしたのか!
「でも、それならどうしていなくなったんだ? 獣人種と森人種はまだいるのに」
「かの龍は、自分を返り討ちにするほどの力を持った天性種を恐れ、種ごと滅ぼしました。ですが、天性種を恐れたのは闇の龍神だけではなかったのです。神々もまた、天性種の力を恐れ、獣人種と森人種が交わることを禁忌とし、このことを人々の記憶から消し去ったのです」
天性種の力を借りれば、闇の龍神を倒すことができる気がしたのだが……。
「天性種はもう、1人もいないのか?」
「いいえ、そんなことはありません。たとえ禁忌でも、愛し合うことを咎めることはしません。ただ、力を使えるようになった人がいれば、その人をどうするかは……わかりませんがね」
いるにはいるけど、力を使える人はいないのか……。
「それでは、話を戻しましょうか。この世界には他にも、様々な種族がいます」
「知恵を磨き、こんな化け物じみた生き物がいる世界でも生き残ってきた《人類種》。強靭な肉体を持ち、その体は雲をも突き抜けるほど巨大な《
「この世界の海を支配する《
「妖精種とは逆に、森人種と敵対している《
「悪魔種と同等の力を持ち敵対する《
「神霊種は、種族の守り神として存在するものもいます。たとえば、海人種の守り神の《海神ネプチューン》。悪魔種の支配者である《冥王ハデス》。神霊種の王、《全知全能の神ゼウス》」
「他にもいろいろな神がいますが、それはまた。そして、この世界のどの種族にも含まれない《魔物》。他にもいろんな種族がいますが、主な種族は、今言った者たちです」
ほえ〜……いろんな種族がいるんだなぁ。
一番驚いたのは、神様が普通にいるってことだな。
しかも、種族の守り神だなんてな。
地球の傍観主義な神様にも見習って欲しいものだ。
「そして、これからあなたの敵になるであろう種族“竜王”。竜王はこの世界に多く存在し、多くの配下を持っています」
「主な戦力を持つのは、《黒竜王 オルガ》《冥王竜 バハムート》《死竜王 ヘルムート》《獄王竜 ウルガ》《海王竜 リヴァイアス》です。この五体は、《五竜王》と呼ばれています」
「他にも《天空竜 サガ》《神龍 バルハード》《太陽竜 ラグナス》などの“龍帝”と呼ばれる竜もいます。先ほど話した五竜王の中で闇の龍神の配下の竜王は、冥王竜と死竜王ですね。この二体には、要注意です」
「そして最後に、最強の種“龍神”です。龍神は他の種族と比べ数が少ないです」
「闇の龍神 《暗黒竜 アグレウス》光の龍神 《閃光竜 ヴァルキリウス》火の龍神 《ファティウス》水の龍神 《ミュリウス》。そして、地の龍神 《ガレウス》天の龍神 《サリウス》以上全てをまとめて、《六龍神》といいます」
ヤバイぞ、頭がこんがらがってきた。
ちょっと多すぎやしないか?まぁ、頑張って覚えるしかないんだろうが。
「それと龍神は竜の姿だけではなく、人の姿も持っています。だからこそ、水の龍神は海神 ネプチューンと子を作れたわけです」
「……それじゃあ、仮に街中に闇の龍神がいたとしても見つけれないんじゃ?」
気付いた時には死んでました。なんて事もありえるだろ。
「いいえ。彼らの姿はとても目立ちますから心配ありません。なんたって、普通の人とはオーラが違いますものね。オーラが!」
オーラって……。
一流アーティストが出すオーラと似てるのか?
そういうのはよく分からないんだが。
何てことを考えていると、女神は「コホン」と咳払いし、真剣な表情になった。
どうやら、今からが本題のようだ。
「さて、先ほど話した竜王のことですが–––なぜ龍神や神々と言った強力な種族の配下になっているのか、わかりますか?」
そんなこといきなり聞かれてもなぁ。
「自分よりも強いものに従ってるだけなんじゃないのか? でもそれだと、他の竜王も一番強い闇の龍神に従ってなきゃおかしいか。–––––ダメだ、さっぱりわからん」
そういう難しい話は苦手なんだよ……。
「気にすることはありませんよ♪ 誰しも、わからないことはありますので! ですが、半分は正解です。竜王は、自分より強い相手に力を授けようとします。理由は、自分より強い者なら自分の力を、自分よりもうまく使うだろうという考えを持っているからです」
「簡単に言うと、ただのバカです! そんなことをするから、闇の龍神が手に負えなくなるほど力を増したんですよ!」
なるほど、確かに馬鹿だ。
うんうん、女神様がご立腹なのもわかる。
怒ってる女神、可愛いなぁ。
「–––––ちょっと、聞いてますか?」
俺が惚けていると、女神の怒りがこっちに向けられる。
俺はその声で我に返った。
女神はまだ、頬を膨らませている。
「あぁ悪い、なんの話だっけ?」
「だから! これを利用しようって話です! いろんな竜王に力を認めさせて、その力を手に入れるんです。そうすれば、闇の龍神を倒すほどの力が手に入るかもしれません」
おぉ! ナイスアイデア!
さすが俺の女神様だぜ! 愛してる!
「確かにそれなら、より強い力が手に入るな……」
だが、女神の顔はまた真剣になる。
「ですが、ここで注意が一つ。気をつけなければならないことは、『自分に扱えない力を手に入れないこと』です。制御のきかない力は、災いをもたらすだけですからね」
「たとえば、ある壺の中に植物の種を入れるとします。その種が成長し壺以上の大きさになった時、壺は割れてしまいます。それと同じで、強大な力は自身をも壊しかねません。これだけは、気をつけてくださいね」
–––––そうだな。
たとえどんなに強い力を手に入れたとしても、扱えないなら意味がないもんな。
肝に銘じておくとしよう。
「さぁ、今日の授業はここまでです。明日からも頑張ってくださいね」
–––––女神の言葉が、だんだん遠ざかっていく。
–––––俺は本当に倒せるのだろうか。
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