第一章 誕生編

第1話『リュウ・ルーク』

 

 目が覚めると、目の前に巨人がいた!

 かなりの美女だが、すごくデカイ!

 巨人は、俺を抱き上げて微笑んでいる。


(おいおい!ソッコーでゲームオーバーかよ!!)


 そう思ったが、彼女は俺をとって食うつもりはないみたいだ。

  今度は不思議そうな顔をしている。


「ーーー・・・ーー……」


 ……ん?なんて?

 チョットナニイッテルノカワカンナイ。


 とりあえず、ここはどこか聞いてみるか?


「アァ〜……ウウァウ」


 ありゃ?

 俺も人のこと言えねぇな。声が言葉になって出てこないぞ?


 とりあえず、もう一度俺を抱いている女性を見てみる。

 綺麗な青い長い髪。その髪は、日に照らされ、淡く綺麗な光を帯びているようだ。


 すると、隣から別の女性が覗き込んできた。

 こっちもかなりの美人だ。が、やはりデカイ。

 こっちの女性の髪は、俺を抱いている女性とは対照的に赤い長い髪だ。


「ーーー!……・・ーー?」


 この女性も困った顔をしている。

 いったいなんなんだよ。

 さては、闇の〜〜なんちゃらとか言う奴の手先か?


 何て思っていると、今度は黒髪の細マッチョなイケメンの男が覗き込んできた。

 なんなんだよ、巨人ってのはこうも美男美女ばかりなのか?


 すると、今度はその男が俺を抱きかかえてきた。

 その時、鏡のようなものが目に入った。

 そこに写っていたのは、黒髪のイケメンに抱かれた……赤ん坊だった。


(……え?なにこれどうなってんの?俺は……あれ?)


 そこでようやく気がついた。

 俺は本当に転生・・したのだ!


 それに気がつくと同時に、彼らが困っているのがなぜか理解できた。

 俺は赤ん坊なのだ。なら、生まれた瞬間に為すべき仕事がある。

 泣かなければ!!


「ウァァ〜!アァー!アァー!」


 俺は力の限り泣いた。恥など捨てよう。

 すまなかったな。父さん、母さん。

 俺は今ここに誕生したよ!


 すると、さっきまで困った顔をしていた彼らは、安心したように笑っていた。





 ––––––––––––––––––






 それから2年ばかりした頃。

 なんとなくだが、この世界の言語を理解してきた。


 彼らのこともだいたいわかってきた。


 まず、最初に俺を抱いていた青い髪の女性が今世での俺の母、メイア・ルーク

 眼は綺麗な黄色で、歳は10代後半から20代前半くらい。とても若い。


 そして、彼女はなんと!《魔法使い》だったのだ!


 俺を抱きながら庭で日向ぼっこをしているときだった。

 彼女は指先を庭の上へと動かし、


「大地の恵みなる雨よ。我に力を、『ウォーターレイン』」


 彼女がそう言った瞬間、

 庭の上で小さな雲ができ、庭の上にだけパラパラとした小雨のようなものを降らせた。


 俺は初めての魔法で興奮し、年甲斐もなくキャッキャと喜んでしまった。

 それを見た母は、満足そうにドヤ顔を浮かべて、何度かその魔法を見せてくれた。


 続いて、俺が2番目に見た赤い髪の女性、アインス・ルーク

 眼は綺麗な茶色で、歳はこちらも10代後半から20代前半くらい。


 そして、こちらも俺の母だった!なんと2番目の妻だったのだ!

 さすがは異世界だ、まさか一夫多妻制だったとは……。


 そして、彼女は《魔法剣士》なのだ!


 それを知ったのは、俺がある程度掴まり立ちで移動できるようになったときのことだ。


 いつものように庭から外の景色を眺めていると、

 風を切るような、聞き覚えのある音がしたので見てみた。


 そこではアインスが、銀色に輝くいかにも異世界と思われる剣で素振りをしていた。


 それだけなら剣士だと思っただろう。

 30分ぐらい眺めていると、アインスが手のひらを剣にかざし何かを唱え始める。


「炎よ。我が剣に全てを焼き斬る力を、『エンハンス・フレイム』」


 そう詠唱した途端にアインスの手の前に魔法陣が浮かび上がり、そこから剣に纏わりつくように紅蓮の炎が這い出た。


 燃え盛る刀身を踊るように振るう彼女に、俺は目が釘付けになっていた。


(……俺もいつかっ!!)


 アインスの魔法を見て、俺もあんな風に!と思った。

 成長が待ち遠しい!体が自由に動くようになったらやってみよう!


 そして次は俺の父親 ルシフェル・ルーク。


 歳は、同じく10代後半から20代前半。その瞳はまるで吸い込まれるかのような深い紅色。

 髪は黒髪の長髪で、髪を後ろで束ねている。


 見かけは細マッチョだが、筋肉量は凄い。

 彼が服を脱いでいるのを見たが、背中には歴戦の証とも見える古傷などがたくさんあった。


 彼は前世の父と比べ、少しゆとりがあるように思える。

 俺がこの世界に来て10ヶ月くらいしてからのことだ。


 俺はつかまり立ちをしながら歩けるようになり、

 階段を登って2階へと行こうとしていたときのことだった。


 メイアが見たら急いで駆け寄り捕まえてくるが、ルシフェルはそうじゃない。

 頑張って登る俺を見て、


「おぉ?励んでるなぁ!ほら、頑張れ!」


 と言いながら見守ってくれる。

 俺としてはありがたいことだが、どうせなら運んで欲しいところだ。


 なぜ登るのかって?そこに階段があるからだ!


 冗談はさておき、俺の目的地は2階にある書斎だ。

 そこにある、魔法・・のことやこの世界の歴史について書かれている本がある。


 幸い、本は俺にも届く位置にあるから苦労せずに読める。


 もちろん、最初から読めたわけじゃない。

 この世界の本は、当然日本語で書かれてるわけでも英語で書かれてるわけでもない。


 この世界の言語を覚えるのには苦労した。


 まず、メイア母さんが子供に読み聞かせるような本を読んでくれた。

 それを喜ぶそぶりを見せたら、何度も読んでくれるようになった。


 言葉は読めないが聞くことはできたので、文章の中から単語を拾い、それを本に当てはめていった。

 そして、言語には法則性が存在するのでそれを見つけ出していく。


 そうして、やっとの思いで本1冊を読み終えた。


 俺はまず、この世界の魔法について学んだ。

 この世界の魔法と剣術には、階級がある。


 ・龍神級

 ・神級

 ・伝説級

 ・覇王級

 ・帝王級

 ・聖級

 ・上級

 ・中級

 ・初級


 魔法は基本的には、詠唱を行うことで大半の魔法は使える–––––が、しかし。

 戦闘では詠唱中に死んでしまうこともあるだろう。


 ターン制ならまだしも、現実では相手は待ってはくれない。

 たとえできたとしても、走りながらは詠唱できない。息がもたんよ。


 そこで俺は詠唱の短縮、無詠唱を試みた。


 まずは、魔法を詠唱で使う。

 その時の感覚を体に叩き込む。


 この言いようの無い感覚は、覚えようと思っても無理だろうとすぐに悟った。


 ならどうするか?–––––簡単だ、その感覚を無意識に使えるようになるまで使い続ける。


 息をするぐらい当然の感覚にまで落とし込めるのが理想だが、それにはまだ遠く及ばないな。


 だが魔力というものは底無しではないらしく、本によるとその総量は増やすことは可能だが限度もあるとのこと。


 それは一番最初に実感した。


 2歳くらいになったばかりの時だった。魔法の基礎とも言える初級魔法を使っていた時だ。


 やることは簡単。体で覚えた魔法の感覚を思い出し、無詠唱で使用する。

 初級魔法の『エアースラッシュ』という風魔法を使っていた。


 小さな風の刃を作り出し放つ魔法だが、部屋を荒らすことなく使えるので練習するにはもってこいの魔法だと思った。


 今日は自分の限界が知りたかったから、魔法をバンバン使った。


 30回くらい使った頃。

 急に疲労感がドッと出てきて、目眩がしてきた。


 だがこんなことでやめるのは癪だと思い、もう一度撃ったその瞬間–––––俺の意識は途切れた。


 目が覚めた時、窓越しに見える景色は暗く俺はメイアの膝の上で頭を撫でられていた。


 彼女はとても不安そうな顔をしていたが、俺の目が覚めたのに気づくと優しく微笑んでくれた。


「よかった〜……。リュウ、平気?–––––もう、びっくりしたわよ。すぐどこかにいなくなるんだから」


 メイアは俺の髪を優しく撫でながら、頬を膨らませて言った。


「慌てて探したら、書斎で倒れてるんだもの。–––––でも、もっとびっくりしたのは、リュウが魔力切れで倒れてたってことね」


 そんなに心配してくれたのか、親心としては当然か。

 前世のクソ親父はそんな心配しなかったから、ちょっと嬉しいな。


 それにしても、もうばれたか……魔法のこと。

 ウチの母さんは騙せないなぁ。


 –––––おっと、紹介が遅れたな。

 俺の名前は、リュウ・ルーク。このルーク家の長男だ。


 どうやら光の龍神の力を受け継いだ、転生者と言うものらしい。特別な力は、まだ感じた事がない–––––不安だ。


 髪の色はメイア母さんと同じ青色で、瞳は父さんと同じ紅色。

 髪は父さんの真似をして、長髪で後ろで束ねている。


 顔はかなり良いと思う、将来はかなりのイケメンだな。

 これが自分の顔とは信じがたい。


 俺が生まれた時、いっとき泣かなかったから一家はかなり焦ったらしい。

 まぁ、その後に俺の完璧な演技で安心したみたいだがな。


 俺はリュウ・ルークとして、これから新たな人生を歩む。


「リュウは、まだこんなに小さいのに文字も読めて、魔法まで使えるなんて。さすが私の子ね!天才だわ〜っ!!」


 メイアの声で我に帰った、今は現実逃避している場合ではない。


 どうする、勝手に漁ったことを謝るべきか。

 それとも無邪気にピースでもするか?–––––いや、やめておこう。


「……ごめんなさい!勝手に読んで勝手に使ってしまって……」


「あ〜ん、もう!謝る必要なんてないわっ!むしろ誇りに思っていいのよ!この歳で魔法を使えるなんてすごいことなのよ?–––––よし、お母さんがリュウに中級魔法を見せてあげるわねっ!!」


「いや、実は……。魔法は上級まで使えちゃったりしちゃったり……」


 –––––さすがに、気味悪いよな。

 こんな小さい子供が上級まで使えるなんて……。


「え!?もう上級まで使えるの!?凄いわ!もう十分冒険者としてやっていけるじゃないの!そうだわ、こうしちゃいられない。この才能をもっと伸ばさなきゃいけないわね!ルシフェル〜!!ちょっと来て〜!」


 ––––え?


 メイア、ちょっと落ち着いてくれっ!!

 2歳の子どもに冒険者は無理だって!!おい、離せ親バカっ!!!


「どうしたの?そんなに慌てちゃって」


 おぉ!アインス母さん!!


「聞いてよアインス!リュウったらこの歳にして、もう魔法を上級まで使えるの!才能を伸ばすためにも、なにかしたほうがいいんじゃないかしら!?」


 –––––猫のようにシャーっと嫌がるリュウと、いまだ興奮した状態のメイアを交互に見やり、アインスは考えるように言った。


「ん〜……。確かに凄いとは思うけど、才能を伸ばすって言ってもねぇ–––––まだ2歳なのよ?一応ルシフェルに相談してみたら?」


「そう思って呼んでるんだけど……あっ!ルシフェル!丁度良かったわ。話したいことがあるのよ!」


 ちょうどそこに父さんが帰ってきた。

 何事だ!という顔をしている。助けてくれ。




 –––––





 夕食を食べてしばらくしてから、家族会議が開かれた。

 メイアは自身の考えをを説明し、5歳になったら学校へ行かせることを提案した。


「学校かぁ……。正直なところ、ああいう場所にはやりたくないんだよなぁ。クソ貴族が多いし、教える奴らもクソだしな。あと5歳で学校なんて通ったら絶対目を付けられるぞ」


「それはルシフェルが通ってた学校でしょっ?!うちの子には、ちゃんとした名門校に通わせてあげなくちゃ!」


「ちょっとメイア、落ち着きなさいよ……」


 目を輝かせて興奮するメイアを宥めるアインス、いつもなら逆に宥められる側なのだが……。


 それにしても、学校かぁ……。

 確かに、ちゃんとした教育機関なら学べることも多いだろうが–––––。


「うーん……。さすがに早すぎるんじゃないか?せめてもう少し大きくなってからじゃないと。–––––そうだなぁ、せめて10歳まで待った方がいいと思うぞ?俺だってまだリュウに教えたいことだってたくさんあるんだしな。それに、アインスの子供が産まれたら、それどころじゃなくなるだろ?」


 そう。アインス母さんは今、妊娠しているのだ。


 前世では一人っ子だったからなぁ、ぜひとも頼れるお兄ちゃんとやらになりたいものだ。


「––––それもそうね!もう少し大きくなってからにしましょうか。それと、私も妊娠してるのよ!今、3ヶ月らしいわ!」


 –––––なんだとっ?!


「ほ、本当か……?」


 突然の吉報に俺もルシフェルも、思わず手から食器を落としてしまった。


「もちろんっ!ふふっ、家族がまた増えるわね♪」


「じゃ、メイアと私の子は同じくらいに産まれるってことね!あ、でもそうなったら、家事とか大変ね。ルシフェル、あんたできるの?」


 確かにそうだな。

 こうなったら、2人とも家事とかできなくなっちゃうな。


 せめて俺の体がもう少し大きければ、家族の力になれるのだが……。


「–––––いっそのこと、メイドを雇うかっ!これからのことを考えると、必要になるだろ」


 メ、メイドさんだと!?

 たしかにうちは裕福な方だとは思っていたが、そこまでとは!


「そうね。明日街に行って募集でもしてみましょうか!ルシフェル!頼んだわよ!」


「わかったよ。とにかく二人とも、あまり無理はしないようにな」


 すっかり話が逸れてくれたおかげで、魔法についての質問攻めは回避できたみたいだ。

 さてと、そろそろ明日から剣術の稽古を父さんにつけてもらおうかな。


 そう思いながら、俺は寝床へと入っていった。






































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