第3話
――― ええい、醜い。見苦しい。この
――― 年に一度の、この春の日の楽しみが、お前のせいで台無しじゃ。
――― ほぅれ、こいつを恵んでやろう。
――― ありがたく頂いて、とっとと土の底へと帰り、
異形のそれは、げえ、げえ、と必死に吐き出し、なんとか地上へ逃れだそうと、じたばた揺れてはもがきます。
―――
――― じゃあこれは
――― ええい、まったく
――― 化け物櫻、とは何事か。これは
牙むく獣のようだった男爵の髭面から、わずかに
――― 春先になると一足はやくその
――― そこからこぼれた薫りたるや、ほのかながら、天下のあまた櫻はおろか、南方の蘭すらもおよばぬ
――― とは言うても、その薫りにはっきり気づくものは稀少じゃ。じゃが、知らず知らずのうちに、その薫りにさそわれて、蜜をもとむる蝶のごとくに櫻のもとへと
――― そうした愚か者どもを捕らえ、
―――
――― 猫にされるだなんて厭だよぅ。
かまわず泣きさけぶ声に、男爵、ゆるけた眉をまたぎりりとつり上げました。
――― 何ともまあ。これだけ懇切丁寧に
――― 貴様のような
――― 化猫櫻の薫りに惹かれて来る者はな、
――― 並大抵ではおよびもつかぬ、魂の腐りきった臭いを立ちのぼらせておる者こそが、この薫りに惹かれては、その根元へと捕らわれるのよ。
憤怒の相をふと得意げにゆがめなおし、かすかに力なくうごく麻袋へと、男爵は顔をむけました。
すこし傾いた春の日をうけた大きな瞳が、その瞳孔を針のように細くして、かすかに金色にかがやき。
西洋童話に登場するわるい魔法使いのもつ宝石
――― そうじゃな。ついでに教えてやろうか。貴様の
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