第10話 続 遠い国の返事 交信

イルカの群れが去って行ったあと・・・・少し離れた処に大きな大きな影が見えました。

「あれは!くじらさんじゃない?」

手紙さんが言いました。

「そうだわ、くじらさんよ!」

 キリエさんもそう思いました。

「ねえ、キリエちゃん、交信を試してみない?ほらシロナガスクジラのおじいちゃんがしてくれたあの交信。」

「でもあれはくじらだけの交信方法なんでしょ。」

「私たち・・・・人間ともお魚たちとも話ができるちょっと変わった手紙でしょ。だったらくじらとの交信もできるんじゃないかしら?やってみましょうよ。思い出して!おじいちゃんくじらさんがどんな音?を出していたか思い出して。」

手紙さんとキリエさんは真剣に考えていました。

「こうだと思う。やってみよう。」

「ニャーモさん、私たちしばらくすることがあるの。だから橋本さんと簡単な英語でうまく話していてね。しばらく通訳できないから。」

ニャーモさんはメールボトル19が何かを始めるのだと思って、分かった、と言いました。


『こちらメールボトル19,くじらさん応答願います。』

手紙さんとキリエさんは必死でそう繰り返しました。何度も何度も繰り返しました。

・・・・・・・・・・・・・

 泳いで居た大きなくじらさんは何か雑音のようなものを感じました。それが繰り返されているのです。なんだろうと思っていると横を泳いで居た子供のくじらが言いました。

「交信・・・・来てる・・みたい・・・よく聞いて。」

おとなのくじらさんは気持ちを集中させました。

『こちら・・・・・・・・くじらさん・・・・・・・・・』

確かに子供くじらの言う通り交信です。おとなくじらさんはもっと集中しました。

『こちらメールボトル19,くじらさん応答願います。』

今度ははっきり聞こえました。おとなくじらさんは息がとまるぐらいびっくりしました。だって!!!!すぐに交信をかえしました。


『こちらマッコウクジラPHR07、本当にメールボトル19なのか?』

返ってきた交信を受けて手紙さんもキリエさんもやっぱり非常に驚きました。まさか、あのPHR07さんとここで会えるなんて!


『PHR07さん!なのですね。私たち本物のメールボトル19です。おじいちゃんくじらさんの真似をして交信を試してみました。くじらさんとお話ができたらと考えたのですが・・まさかPHR07さんとまたお話ができるなんて思ってもいませんでした。』

『私だってこんなに驚いたことはないよ。君たちはいったいどこにいるのか?』

『モーターボートが見えるでしょ。その甲板にいます。』

『ああ、見える。今から少し近づいていく。』

PHR07さんともう一頭の大きなくじらさんと小さなくじらさんがボートに近づいてきました。


「おやあlーーーー、くじらの親子だ、珍しいなぁ。」

と橋本さんが言いました。ニャーモさんはメールボトル19が必死なのが、このくじらさんと話がしたかったからだと分かりました。

「イエス、ホエール、ホエールズ。プリーズ、ドント ヒット トゥ ホエールズ」

ニャーモさんはボートがくじらにぶつからないように橋本さんにお願いしました。橋本さんもそのことはちゃんと分かりました。


『見える。おお、ボトル君も元気そうだね。』

『こちらからもよく見えます。あの、一緒にいるくじらさんと小さなくじらさんは?』 『このくじらは私の奥さんでPHR68、それから小さなのは私たちの子供でPHRーXZ』 『PHR07さん、結婚したのですね!!!わーーおめでとうございます!』

PHR07さんとの交信は手紙さんが受け持ちました。だってキリエさんはもう興奮しきって、話をさせると又混乱したような話し方になるからです。

『私は一頭だけで自由に生きているのが好きだった。北海、オランダの沖の方が私の居場所だった。ある日、シャチに狙われて傷を負ったこのくじらと出会い、シャチと戦ってなんとかこのくじらを助けることができた。しかし、傷は大きくてなかなか一頭だけで生きていくのは大変だった。それで餌など与えて回復するまでずっと一緒に居たんだよ。そのうちに気持ちが通じてお互いに好きになって結婚した。そして二年前に生まれたのがこの子だ。今日はこの子にあちこち見せたくて太平洋を南下してきていた。遠足だよ。』 『そうだったのですか。奥さん今は元気ですか?』

『うん、元気だ、しかし、泳ぎが少しうまくいかない。あの傷は非常に深かったからね。』

『でも可愛いお子さんも生まれて幸せそうで良かったです。』


『ありがとう。それで君たちは?2番目の手紙さんは私と別れたあと、ちゃんと良い人に拾われたのだろうね?』

手紙さんはかいつまんでその後の事を話しました。そして何故今このボートに乗っているかも。

『そうか、私たちは出会える運命にあるのだな。まれなことだが嬉しいことだ。』

『そうそう、あのおじいちゃんくじらさんはどうしていますか?』

『御長老は三年前に天国に行った。だが・・悲しまなくていいよ。敵に傷つけられた訳でも無く。病気になった訳でも無い。とても静かに眠ったのだからね。

 たくさんのくじらが集まって、御長老を海の深い処にある岩場に運んで、大きな岩の下で眠ってもらった。そこなら誰にも邪魔されることもなく眠れるからね。』

『・・・・・・はい・・・・・・』


手紙さんもキリエさんも泣きそうになるのをじっと我慢しました。その時キリエさんがニャーモさんに言いました。

「ニャーモさん、橋本おじちゃんにお願いして花瓶のお花全部もらって!」

ニャーモさんは言われた通り橋本さんにお花をくださいと言いました。

「ニャーモさん、そのお花の半分を海に投げ込んで!」

ニャーモさんがお花を海に投げ込むと花々がぱーっと散っていきました。

『今、投げたお花はシロナガスクジラのおじいちゃんに!!!!』

キリエさんは泣き声でそう言いました。

『メールボトル19の気持ち、確かに受け取った』


「ニャーモさん、残りのお花を投げ込んで。」

海は花模様になりました。

『今投げ入れたお花は、PHR07さんとPHR68さんとPHRーXZさんへのお祝いのお花』

『ありがとう。君たちの気持ちとても嬉しい。花々の海、けっして忘れないよ。

 私たちはオランダの沖にいる。ニャーモさんにオランダに連れてきてもらって、観光船に乗れば私たちはまた会える。又会おう、何度も会える。また会おう。』

『はい!必ず。又会いましょう。それまでお元気で。又会いましょう!』

手紙さんとキリエさんは声を合わせて交信をしました。


マッコウクジラPHR07さんはいつものように高く潮を噴き上げました。奥さんのPHR68さんも同じように。そして小さなこどもくじらさんも、お父さんお母さんの真似をして潮を噴き上げました。それはほんのちょこっとでしたが、とても可愛らしいものでした。

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