第9話 続 遠い国の返事 上 橋本さんと海

よく日、橋本さんが迎えに来ました。愉快で元気なおじさんでした。

「じゃあ、今日は海をいっぱい楽しんできてくださいね。」

と、宮子さんが見送ってくれました。

 モーターボートが停めてあるマリーナに着きました。

「はい、これは僕の自慢のモーターボートですよ。さあ、乗って乗って。」

 ニャーモさんはバッグにメールボトル19を入れて乗り込みました。

 !!!なんと。

「ここ・・・・ニャーモのお家より広いし豪華・・・す、すごい。」

甲板から船内に入ると、そこは船の中とは思えないお部屋でした、絨毯が敷いてあってベッドがあり、大きなソファーにテーブル。壁には飾り棚があって、立派な花瓶に色とりどりの沢山の花が飾ってあります。小さなキッチンもあり冷蔵庫もあります。洗面所もシャワールームもあるのです。普通のお家の中と違うのは、どれもこれも床に固定して居たことです。大きく揺れても動いたり倒れたりしないように。

メールボトル19も『ここすごい・・・ほんとにニャーモさんのお家ぐらいはあるね』 とひそひそ声で話していました。

 そうそう・・・手紙のやりとりと同じように宮子さんは日本語、ニャーモさんはフィンランド語で話していて、それでも二人はちゃんと話ができているのです。けれどニャーモさんは他の人の日本語は全くわかりませんでした。とても不思議なことです。だから手紙さんやキリエさんがこっそり通訳をしていました。


橋本さんはボートを発進させました。

「今から太平洋に出て行きますよ。今日は天候もよくてあまり高い波もなく気持ちの良いクルーズ日より。ゆっくり楽しんでください。キャビンにあるものはなんでも使ってください。冷蔵庫には冷たい飲み物も入っていますから、ご自由にどうぞ。」

橋本さんは親切に言ってくれました。ニャーモさんはメールボトル19を連れて甲板に出ました。海の景色はどこまでも青く広く限りないように見えました。もう岸からはよほど遠ざかったのか小さく見えるだけで、何もない海の中に放り出されたような気持ちになりました。

「あなたたちはこんな海を長い間漂ってきたのね・・・心細かったでしょうね。」

 ニャーモさんはしんみり言いました。メールボトル19の2回の旅はずっと海を漂うもの。早く早く、どこかの海岸にたどり着きたかっただろうなぁと思ったのです。

「うん、最初は怖かったり寂しかったりしたけどね。でもいろんなお魚さんたちが助けてくれたり、お話してくれたりして楽しかったよ。海は大好き。」

キリエさんが元気に言いました。手紙さんも言葉を続けました。

「そう、海は、旅は、たくさんの事を教えてくれたのだもの。私もとても好き。」


暫く行くと飛んでいるのか泳いで居るのか、鳥か魚か分からないものが群れていました。

「あれ、なんだろう?お魚さん鳥さん?」

橋本さんは少し変な顔をして言いました。

「あなたは妙な声で話しますなぁ・・・言い方も子供みたいだ。」

 ニャーモさんはちょっと汗をかきました。

「私は日本語が上手に話せないし、緊張して子供みたいになってしまうんです。」

手紙さんがうまく言いました。

「ああ、なるほどね。そうだよねえ、あなたは外国の人だものなぁ。」


橋本さんが納得してくれたようでニャーモさんはほっとしました。別にメールボトル19のことを秘密にするつもりは無いのですが、説明すると長くなるし、話す手紙だなんてすぐには信じてもらえないだろうし。

「いやいや失礼なことを言って、ごめんなさいね。」

人のいい橋本さんはわざわざ謝ってくれたので、ニャーモさんはまた少し汗をかきました。

「で、あれはトビウオと言う、魚だよ。鳥じゃ無い。羽があるように見えるが羽ではなくてひれの一部なんだよ。」

「すごく高く飛んでるし、ずっと飛んでる。すごいですね。」

「そうなんだ、驚くほど長く高く飛べる。このボートの10倍ぐらいの長さはゆうゆう飛べるんじゃないかな。」

「そんなに長く飛んでいられるなんて、びっくりです。でも海にいるのになんで飛ぶの?」

「海の中でトビウオを食べようとする魚に出会うと、食べられないように飛ぶんだ。」 「ああ、やっぱりどの魚も身を守る武器を持っているのですね。」

「ああ、そうだよ、良く知っていますね。」

「エイヤさんが教えてくれたの。」

「ああ、フィンランドの友達ですね。」

と橋本さんが言いました。まさかマダラトビエイのエイヤだとは言えないし、そうですと答えました。

 『エイヤ、フィンランド人になっちゃったわねえ』

手紙さんとキリエさんはそう言って笑いました。ボトルさんも可笑しかったのかぴょんと跳び上がりました。


 手紙さんとキリエさんが橋本さんと話している時は、どちらかが橋本さんの話した事をニャーモさんにフィンランド語で伝えます。だからニャーモさんも可笑しくなって大声で笑ってしまいました。突然ニャーモさんが大声で笑ったので橋本さんは

『外人さんはちょっと分からないことをするなぁ・・何が可笑しかったのだろう?』

と、心の中で思っていました。


お昼になってキャビンでお食事を頂きました。橋本さんは海での生活がとても慣れていて、素早く昼食の用意をしてくれたのです。

「さてと、もう少し進んでから旋回して戻りましょう。」

橋本さんがそう言ったとき、とても可愛らしい大きな魚が海から少し顔を出したり、また潜ったりしているのが見えました。

「可愛いお魚、大きいけど優しそうな顔していて、可愛い。」

「あれはイルカ。何頭かで泳いで居るのをよく見かけるよ。イルカは魚じゃ無いんですよ。」

メールボトル19はPHR07さんが自分は魚では無くて、人間の仲間だと言ったのを思い出しました。海の中には魚ではない生き物がいるようです。


「魚では無い生き物結構たくさんいますよ。あまり見かけることもないけど。クジラ、イルカ、アシカ、アザラシ、などなど。だいたいどれも優しい目つきをしていて可愛い生き物ですよ。」

橋本さんが教えてくれました。やはりくじらもその中に入っていました。

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