第8話 続 遠い国の返事 上 渦と桜
そんな話をしながら気持ちよく走っていくと、右手に 小高い山が見えてきました。 宮子さんが教えてくれた場所です。坂道をグーゥンと上がって行きました。 上がっていくとそこは広い 展望台になっていました。ニャーモさんは見晴らしの柵のすぐそばに モーターサイクルを止め、 しっかりと 鍵をかけ チェーンロックもかけました。
「 こんな大きなアスペンケードだから持ってっちゃう人なんかいないと思うけど。それでもね、 大切なモーターサイクルですもの 何かあったら 大変 。」
そう言ってアスペンケードを横目で見ながら 海の方を見ました。もちろん 手にはメールボトル19を抱いて。
「 すっごい 渦だわ。 本当にすごい。 それに一つじゃないのね。 いくつもいくつもある。」
「 あそこに船が見える。人が乗っているわ。あんなに渦の近くまで行って大丈夫なのかしら?」
「 うん それは 遊覧船を動かしている人は慣れてるから、絶対危ないところには行かないわ。 それにしても怖いわね。ニャーモは乗りたくないわ。」
「 手紙姉ちゃんとボトルさん、よく こんなところを通り過ぎたね。よく無事だったね。」
「 あんな大きな渦に巻き込まれたら、どんなに強いボトル さんだって 壊れなくてもそこから抜け出すことはできなかったと思うわ。 私たちが巻き込まれたのはもっともっと小さい渦だった。 ほら あっちの方を見て。小さい渦がいっぱいある。 小さい渦はしばらくすると消えていくでしょ。 あんな渦に巻き込まれたのよ。
この大きな渦 だっていつかは消えるだろうけれども、でもいつまでたっても消えそうにないわね。 本当に今さら思うわ。こんな渦に巻き込まれなくてよかったって。ボトルさん 本当にありがとうね。」
ボトルさんは何回も傾きました。きっと運が良かった、あれに巻き込まれなくて良かったと、あの時のことを思い出して身震いしているのでしょう。
渦を堪能してそれからまた走り出しました。 あっちの方に行ってみようと 山の方に向かいました。山々は桜でピンク色に染まっています。 緑色の山 じゃないのです。 どこもかしこも とても柔らかい淡い 綺麗なピンク色。 こんな景色を見たことがありませんでした。 ニャーモさんもメール ボトル19もうっとりしています。
「 日本ってどこに行っても桜がこんなにあるのね。 私の国には 桜なんてないわ。 春がこんな色になるなんて。 春はまだ薄暗い感じで色がないのに 日本はピンク色になっていくのね。 なんて 柔らかくて綺麗な色なのでしょう。日本にぴったりの雰囲気の春だね。 気持ちいいね。
私、渦の模様の図案と桜の模様の図案を描くわ。オリエンタルな雰囲気で、きっといいものができあがると思うの。」
そう言いながらどんどんと走っていきます。 カーブの多い山道もアスペンケードにはなんてことないみたいで、ニャーモさんもすっかりアスペンケードに任せている感じです。
どれぐらい走ったでしょう。
「さぁ、そろそろ帰ろうか。」
ニャーモさんはそう言って引き返し始めました。 そして宮子さんの家に一番近いガソリンスタンドで停まり、アスペン ケードにガソリンを満タンに入れました。宮子さんのお家にたどり着きました。
「 ただいま帰りました。」
宮子さんが玄関から出てきました。
「 宮子さん 宮子さんウエスを貸してください。」
「 ウエスって何かしら?」
手紙 さんが言いました。
「雑巾のことです。」
「 あ 雑巾ね。手足が汚れたのかしら。 ちょっと待ってね。」
宮子さんは 雑巾を持ってきてくれました。 受け取ったニャーモさんはアスペンケードを きれいに綺麗に拭き始めました。
「 あらニャーモさんそんなことしなくていいのに。」
「 いいえいいえ。 ツーリングをした後はモーターサイクルは綺麗にしてあげないと、アスペンケード だって気持ち悪いと思いますよ。」
ニャーモさんはアスペンケードをきちんとお掃除をしました。 そして宮子さんにお礼を言って 鍵とヘルメットを返しました。
「ご主人の大切な大切なモーターサイクルを貸してくださって 本当にありがとうございました。宮子さんの 言われた通り 渦と桜を満喫してきました。 とっても素晴らしい ツーリングでしたよ。」
宮子さんはニャーモさんが満足してくれたことがとても嬉しかったのです。
「 明日はまたサプライズがありますよ 。明日のサプライズは今日のうちに伝えておきますね。」
メール ボトル19もニャーモさんも、明日も サプライズがあるなんて 一体何なんだろうと思いました。
「明日はモーターボートに乗って海をクルーズですよ。夫の教え子のお父さんで橋本さんと言う人のお船です。橋本さんは海が大好きで、お仕事を定年退職してその時にいただいた退職金を全部使って、とても豪華なモーターボートを買ったのです。もちろん奥さんは、そんなものにお金を全部使ってと怒って夫婦げんか。」
宮子さんは可笑しそうにケラケラと笑いました。
「奥さんと私も乗せてもらったことがありますが、そりゃ豪華な船内でした。ただ私たち二人とも船酔いで、『早く港につけて、帰りたい、気持ち悪い』と言い続けて、橋本さんはご機嫌ななめ。それ以来一回も乗せてもらっていません。橋本さんは一週間に三日は船の中で過ごしていてお家には帰らないのですよ。
明日は朝ご飯のあとに橋本さんが車で迎えにきてくれます。あ、ニャーモさん船酔いしますか?」
「私は乗り物はなんでも大丈夫です。でも・・・毎日宮子さんがお留守番なんて申し訳ないです。」
「私は何かを計画するのが大好きなの。その計画を喜んで楽しんでもらえたらすごく嬉しいのです。」
『宮子さんは若いときはたくさん旅行の計画を立てて、元気にでかけていたのだろうなぁ・・・今は私たちと一緒に動き回る体力がないのかもしれない・・・だったら宮子さんが計画してくれたことを、ありがたく受け取って、あとでいっぱいお話してあげるのが一番いいのだろう』
ニャーモさんは心の中でそう思いました。
その晩は宮子さんとニャーモさんは二人でたくさんのお話をして楽しみました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます