第7話 続 遠い国の返事 上 モーターサイクル
翌日朝食が終わったあとで玄関のブザーがまた鳴りました。
「またご馳走かな?」
「キリエちゃんさっき朝ご飯が終わったばかりよ。ご馳走じゃないと思うわ。それに昨夜宮子さんが、明日サプライズがありますと言ったわよね。」
そんな話をしていると外から宮子さんが大きな声でニャーモさんを呼びました。ニャーモさんはメールボトル19を抱えて外に出て行きました。
「あ、ああああああ!これって。」
宮子さんが嬉しそうににこにこしています。
「これって、ホンダのアスペンケード!!!!!実物を見るのは初めてです。すごいモーターサイクル。わーー本当にすごいわ。でもこれ・・・?」
「夫のものでした。夫は大学に行って講義をしたり家で論文を書いたりの毎日でしたが、気晴らしと言うかリフレッシュですね。これに乗ってよくあちこち走っていたのです。夫が亡くなってから手放そうかと考えたのですが、それってなんだか寂しくてホンダのお店に相談したところ、お店で預かってくれてお店の人が時々乗って、メンテナンスも定期的にしてくださっているのです。」
「そうだったのですか。で??アスペンケードを持ってきてもらったのですね?私に見せてくれる為に!」
「ニャーモさん国際免許は持っていますね?今日はこれに乗ってあちこち走ってきてくださいな。」
「えっ!?わ、私が乗ってもいいのですか?」
「もちろんですよ!ニャーモさんがバイクが(日本では普段はあまりモーターサイクルとはいわず、ただバイクと言う)とってもお好きなのを聞きましたから、日本に来てくださるときがあったら、必ず乗ってもらおうと考えていました。点検も念入りにしていますし、きっと快適に走れると思いますよ。」
ニャーモさんはもう有頂天で、アスペンケードの周りを回ってあれこれ見ていました。そして、ちょっと着替えてきますとお家の中に入り、出てきた時にはライダースジャケット姿になっていました。
「かっこいいですね、とてもお似合い。今は桜の花が真っ盛り、山の方を見ると桜だらけですよ。どこでも好きなところを走ったらいいのですがひとつだけ。この坂を下りて左に曲がって海沿いを行くと右手に小高い山があります。そこを登っていってください。『渦潮展望台』があります。鳴門の渦潮が見られる場所です。それはそれは大きな渦で一番大きいのは直径30メートルもあるそうです。世界で一番大きな渦潮と言われています。
渦潮は春に一番多く見られて、今はちょうどいい時。渦潮と桜、満喫してきてくださいね。さ、メールボトル19さんも一緒に行ってらっしゃい。」
用意されたヘルメットと鍵を受け取って、ニャーモさんは少し考えたけれどメールボトル19を風防のところに置きました。
「え?こんなところ?怖いよ。落ちちゃう。飛ばされちゃう。」
「大丈夫、アスペンケードのカウル(風防のこと)はとても大きくてボトルさんに負けないぐらい丈夫。一番見晴らしのいいところよ。ニャーモさんを信じなさい!」
ニャーモさんはエンジンをかけました。いい音。快適な走行ができるなと分かる音でした。
「じゃ、行ってきます!!」
「はい、うんと楽しんでいらっしゃい。」
ニャーモさんと宮子さんのその姿は、母親が活発な娘を見送っているかのようでした。
走り出したニャーモさんは、うわーすごい!と大きな声を出しました。
「このアスペンケードって ものすごい。なんて素晴らしいモーターサイクルなんでしょ! まさか私 今年初めてのツーリングを アスペンケードで、しかもこの日本でするなんて考えたこともなかったわ。 お家で待っているピレンちゃん ごめんね。 帰ったらピレンちゃんと一緒にフィンランドでの初ツーリングしましょうね。それにしても何とすごいモーターサイクルかしら。」
カウルの前で大人しくしていたメール ボトル19は、ここは確かに風も全然来ないし 揺れないし 見晴らしもいいし。 とってもいい場所だなと思っていました。 それにしてもニャーモさんが何でこんなに叫んでいるのかな? とちょっと聞いてみたくなりました。 「このモーターサイクルってそんなにすごいの?」
「すごいわ。私が 思った通りに動いてくれるの。 私がこうしたいと思ったらちゃんとそうしてくれるの。 だからとっても楽なのよ。 それに比べてね、私のピレンはピレンの方が私にこう動けって言ってくるの。 その通りしないとピレンは機嫌が悪いの。ピレンはとっても難しい モーターサイクルなのよ。でもこのアスペンケードってすごく素直、おとなしいわ。 本当にすごいモーターサイクル。」
「そんなにすごいモーターサイクルだったら、どうしてニャーモさんこれを買わなかったの?」
「買えないわよ。 ものすごく高いんだもの。 ニャーモの以前のお給料じゃ全然足りないわ。 今のお給料だって難しいよ。私は以前は知り合いのおんぼろモーターサイクルを、すっごく安く譲ってもらってそれに乗っていたの。そしてお金をためてやっとピレンを買うことができたのよ。
それにね 私はピレンが気に入っているの。ピレンのスタイルとこの子のスタイルって全然違うでしょ。 ピレンってほら狼みたいじゃない。そして後ろから見るとね、北欧の建物に見えたりするのよ! フィンランドにぴったりだと思うのよね。お隣の国のスウェーデンのハスクバーナーっていう会社が作ったの。 まあ今はハスクバーナーのモーターサイクル部門は、よその国に行っちゃってるけどね。
やっぱり北欧の雰囲気っていうのかな。
それにね ビット ピレンっていう名前はね、白い矢っていう意味なの。 ビットは白 ピレンは矢よ。 そしてね弟分がいてね。 その子の名前はスヴァルトピレン って言うの。スヴァルトは 黒。 ピレンは矢だから 白い矢と黒い矢なの。なんだかすごくいいでしょう。」
メール ボトル19は 思いました。
『お隣の国ってすごく近いし、そこも白夜があって冬は暗くて オーロラの出る 夜なのかしら。 だとしたらビットピレン、スヴァルトピレンって白夜と オーロラの夜のことじゃないかな 』
それをニャーモさんに言ってみると
「 今まで考えたこともなかったけど、本当にそうかもしれないわね」
と言いました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます