第6話 続 遠い国の返事 上 すごいボトルさん!
歩いて行くと 浜辺からそんなに遠くないところに宮子さんのお家がありました。古いけれど大きなお家です。 お家の前に『橘』 と書いた木片が貼り付けられていました。 「橘って書いてある。 宮子さんのお家だね。」
ブザーを押すとすぐにドアが開いて宮子さんが現れました 。宮子さんは白髪 と 黒い髪の混じった灰色に見える髪の毛を後ろで結んで、白いブラウスに紺色のカーディガンを羽織り紺色に花模様のある長いスカートを履いていました。顔は優しくて にっこり笑ってメガネをかけていました。
「 本当に来てくださったのね!お電話を受け取った時からもう 待ち遠しくて!!嬉しいわ。さ お疲れでしょう。 早く入ってくださいな。」
ニャーモさんはお家の中に入りました。 広いお家です。宮子さんはニャーモさんに抱きつくように嬉しさを表しました。
「ゆっくりくつろいでくださいね。 本当に夢みたい。遠いところ 来てくださってありがとう。 とてもとても楽しみにしていましたのよ。」
大きなテーブルのところにもう用意してあったお菓子とお茶。
ニャーモさんはバッグの中からメールボトル19を取り出しました。その中から手紙さんを取り出しました。 手紙さんを宮子さんの方に差し出しました。
「 この手紙さんがボトルさんに入って、私のところにたどり着いてくれたのです。一番最初のお手紙でしたね。」
宮子さんは手紙さんをじぃーっとと見つめました。 そして涙を浮かべました。
「私 これを書いた時のことをよく覚えています。 毎日がとてもつまらなくてとても寂しくて、 何かワクワクするような楽しいことがないかしら? そういう風に考えたのです。それでメールボトルを流すことを思いつきました。
あの時は本当に賭けみたいな気持ちだったのですよ。 だってちゃんとメール ボトルがどこかにたどり着くかなんて 誰にも分かりませんものね。 でもあなたが拾ってくれて、あなたとお友達になれて、私は毎日が楽しくてたまらなくなりました。 本当に嬉しいのです。 こんなおばあさんになってしまったけれども 新しい喜びがあるなんて思いもしませんでした。ありがとう。 感謝しています。」
それから 手紙さんに言いました。
「 私の気まぐれであなたを書いて 海に流してごめんなさいね。 大変な旅をしてくれたのね。 でもあなたのおかげで 私はとっても幸せになりましたよ。本当にありがとう。」 手紙さんは言葉がありませんでした。 みやこさんに会って胸がいっぱいだったのです。 感激していました。
ニャーモさんは聞きました。
「 このボトルさんはとても強いですけど特別なボトル さんですか?」
それはニャーモさんがずっと聞きたかったことでした。
「はい、特別なボトルです。
亡くなった夫の大学の同期生が、夫とは違って理系の研究をされていたのです。 とっても強いペットボトルを作ろうと ずっと研究をしていて、このボトルは試作品なのです。
日本の科学者たちだけでなく、イギリス、アメリカ、ドイツ、それからスウェーデンなどからも学者さんたちが集まって研究をなさっています。
その試作品をお願いして私がいただきました。
どんなボトル かと言うと普通のペットボトルよりずっとずっと分厚くて、高熱300度ぐらい、そんな熱でも耐えられるのです。溶けないのです。 それからマイナス60度ぐらいの寒さでも凍りついたり割れたりしないのです。 そしてだいたい1000kg ぐらいのものが上から落ちてきても割れないのです。 この研究は今も続けられています。 その方はまだまだ頑張っていらっしゃいます。
何の為にそんな研究をされているかと言うとね、 日本は火山国で地震が多いのですよ。自然災害が多いのです。 地震が起こると家屋が潰れたり火事が出たり そういうことが多く発生してたくさんの方々が被害を受けます。 そんな時の為に このペットボトルに大切なものを入れておいたら、火事が起きても燃えにくいのです。 上から屋根が落ちてきても割れることもありません。 大切なものがちゃんと残るのです。火事の炎はもっと温度が高いですから、今はもっともっと高い温度にも耐えられるようにと 研究が続けられているのですよ。
そんなペットボトルですから私はきっと大丈夫と思って手紙を入れました。」
ニャーモさんも 手紙 さんも キリエ さんも、そしてボトルさん自身も どうして あの海の中で耐えられたのかが この話 でやっと理解できました。 やっぱりこのボトルさんは特別なボトルさんだったのでした。
「それってすごいプラスティックですね。ものすごく大きいのが作れるようになって、それでお家ができたなら、地震が来ても火事になっても安全ですね。そんなのができると良いですね。」
手紙さんが言いました。
「そうね、そんなものができたら良いわね。私が生きている間には無理だけど、ニャーモさんがおばあさんになった頃にはできているかもしれませんね。そんなものができたら間違いなくノーベル賞とれますね!それにしてもまあ、あなたはとっても賢いのね。」
宮子さんがびっくりしました。
「手紙さんは、宮子さんやご主人の遺伝子を引き継いでいるのかもしれません。とても聡明でなんでも覚えが早くて。それに引き替え私が書いたキリエは、私に似て元気が取り柄。そういえばおしゃべりキリエちゃん、ずっと黙ったままね?」
キリエさんは遠慮していたのです。ここは宮子さんのお家。手紙姉ちゃんがいっぱい宮子さんと話したいだろうと思って。
「・・・・初めまして。ニャーモさんが書いてくれたキリエ・・・です。フィンランド語でお手紙の意味です。」
キリエさんは珍しく恥ずかしそうに言いました。
「あなたもとっても強くてよい子。あなたのインドネシアまでの旅のお話、ニャーモさんのお手紙で知らせてもらいましたよ。会えてとても嬉しいわ。」
宮子さんはキリエさんとボトルさんの旅の事をちゃんと知っていて、勇敢な元気な子だと思っていたのです。
そんな風に話が弾んでいたとき、玄関のブザーが鳴りました。宮子さんが有名な料亭に夜のお食事を頼んでいたのです。
「さあ、お料理が来ましたよ。私は料理をしてお客様をもてなすのは昔から苦手で。お料理へたなのですよ。」
と言って宮子さんは笑いました。
たくさんの料理がテーブルの上に並びました。その真ん中に置かれたのは『鯛の塩焼き』でした。
「わーー、鯛さんよ!鯛さん、本当に鯛さん。」
手紙さんは驚いたような嬉しいような複雑な気持ちで叫びました。
宮子さんはそんな手紙さんを見てほほえみながら言いました。
「今日はニャーモさんとお会いできて、メールボトル19さんともお会いできて、特別な日、とっても幸せなお祝いの日ですから。鯛の塩焼きをお願いしました。さあ、ニャーモさんたくさん食べてくださいね。」
手紙さんはあの時出会った鯛さんの言葉を思い出していました。
『私たちはとっても美味しいの、そしてお祝いの時には必ず食べられるの。それが私たちの自慢なのよ』
「日本ではお祝いごとがあったとき、鯛を食べるのですね。私の国には特別なお料理って無いような気がします。これは日本だけですか?」
ニャーモさんが尋ねました。
「おめでたい時に鯛を食べるのは多分日本ぐらいでしょうね。日本人は鯛が好きなのですよ。とても美味しいしなんと言っても見栄えがよろしいでしょ。」
宮子さんはそう言ってにっこり笑いました。
ニャーモさんには鯛の見栄えがいいかどうか良く分かりませんでした。サケは丸ごと食卓に出されることはなくいつも切り身だし・・・・
実際に会ってみるとお手紙の交換だけでは分からない、様々なことがあるのだなぁと思いました。
ニャーモさんは日本のご馳走をたっぷり頂きました。大満足でした。
「さあ、今夜は早くお休みくださいね。長旅と時差ぼけでほとんど眠っていないと思います。明日はちょっとしたサプライズがあるのでお楽しみにね!」
宮子さんは悪戯っぽい笑いを浮かべて言いました。
ニャーモさんもメールボトル19も、本当にあっという間に寝付いてしまいました。
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