第4話 続 遠い国の返事 上 ああ、そうなんだ!
たくさんのゲートがあって、大きな窓からはたくさんの飛行機が見えます。お客さんたちはみんな自分の行き先のゲートの前の椅子に座って待っています。
「ここだ。65番ゲート。ここから私たち飛行機に乗るのよ。」
メールボトル19は珍しそうにあちこち見ていましたが、手紙さんが言いました。
「あそこ、掲示板に『出発HEL,目的地KIX』って書いてあるわ。ここから出発だから・・・・HELって、ヘルシンキの略ね。じゃ、目的地のKIXってどこかしら?」
「きっとアフリカ大陸の国の名前よ。」
とキリエさんが言いました。
「何故アフリカ大陸だと思うの?」
「ええと・・・・スエズ運河に行く前にマダラトビエイのエイヤさんが、アフリカ大陸ってすごく大きいんだよ、って話してくれたから・・・・・・・だからなんとなく。」
「キリエちゃんアフリカ大陸に行きたいの?でも国の名前じゃないわ。だってここはフィンランドでしょ。国の名前だったらFINとかになると思うの。都市の名前ね、ヘルシンキだものここは。」
「じゃあ、KIXってお名前の都市に行くのね。」
「でもKIXってどこか分からないわ。ニャーモさんどこ??」
「関西国際空港って処に行くのよ。KANSAI INTERNATIONAL AIRPORT。」
「だから・・・KI ね?でもXはどこから来るの?KIAじゃないの?」
「ううむ・・・・・ニャーモもどうしてか分からないわ。でもとにかくKIXなのよ。あとで飛行機に乗ってから、キャビンアテンダントさんに尋ねてみましょうね。」
ニャーモさんはこの好奇心満載のメールボトル19に少々困ってしまいました。ちゃんと説明してあげなくちゃ。分からない、知らないって逃げたらいけないのだわと思いました。
そんな話をしていると、65番ゲートのお客様は機内に進んでくださいと、 アナウンスがありました。 さあ行きましょうと言って ゲートを通るとまるでトンネルのような通路がありました。 ボーディングブリッジ という通路で、出口は飛行機の入り口につながっています。 飛行機の入り口を通る時制服を着た女の人たちが、 こんにちは。いらっしゃいませ。と挨拶をしてくれました。ニャーモさんの座席は32番の 窓側でした。 メールボトル19をバッグから出すと、窓の処の少しの段差のところに置きました 。
「こうしたら外がよく見えるでしょ。 飛び上がる時には私の膝の上 ね。」
ニャーモさんが言いました。
メール ボトル19はずっと外を見ていました。 たくさんの荷物が運ばれてきてどんどんと 飛行機の中に入れられています。
「 私たち あんな風にして飛行機の中に入れられたのだけど、 どこに入れられたのかしら?」
「 それはね この、お客さんたちが乗っているところの下なの。飛行機のおなかの部分 よ。この下になるんだよ。」
「 あーそれで 上の方を人が歩いてるような音が聞こえてたんだね。 今よくわかった。」 キリエさんがそう言いました。
さて 乗客がみんな乗ると飛行機が静かに動き出しました。 本当に静かに動き出しました。しばらくそのように動いているとアナウンスがありました。
「 ただいまから離陸をいたします。 シートベルトをしっかりお締めになってください。」 そのアナウンスがあったとたんに飛行機はものすごい音を立てました。ゴゴゴゴーォ と風のような 嵐のような音です。 そして猛烈なスピードで走り出しました。 そのとたんにニャーモさんも膝の上に抱かれたメールボトル19も後ろに引っ張られるような、後ろに下がっていくような感じがして、そのうちに 飛行機はふわっと上がり 斜めになりました。 斜めになって後ろに引っ張られているのです。
「 これだったんだ!あの時 こんな感じになった。すごく怖かったけど これは 飛行機がお空に浮き上がる時のことだったんだね。 本当に今はよくわかる。」
キリエさんが興奮して言いました。そんな状態が続いていてそのうちに だんだんと飛行機はまっすぐになってきました。 まっすぐになってきたと思うとまるで動いていないかのように静かになりました。
飛行機が静かになるとキャビンアテンダントさんたちが、 飲み物を持ってきてくれたりいろんなサービスを始めました。アテンダントさんたちは 丁寧に動いていますが それでも足音はします。
「あの足音はこうやってキャビンアテンダントさん達が歩いている音だったんだね 。乗ってみると何もかもが分かってくるね 。」
ボトルさんは一回ちょこっと 傾きました。 はいと言っているのです。
それからしばらく経つと夕食が運ばれました。 メール ボトル19はちょっと不思議な気がしました。 だって飛行機に乗ったのはお昼です。 それに乗ってからまだ1時間ちょっとぐらいしか経っていません。でも ディナーですと言ってお食事を運んできてくれるのです。
「なんで夕食なの?」
とキリエさんが聞きました。
「ううん。それ難しいことなんだけどね。この飛行機はお昼の1時にヘルシンキを出発しました。KIXには8時間で到着します。じゃあ、何時に着くの?」
「夜の9時。」
「だよね。でも違うの。朝の6時に着くの。」
メールボトル19はびっくりしました。なんで?なんで?
「地球は回ってるって知っているよね?」
ニャーモさんはお食事についてきたデザートのみかんを手に持ちました。
「これ地球だとするとね、こうやって左に向かって回っているの。それでね、この飛行機は右に向かって飛んでいるの。地球が回ってる方向と反対に向いて飛んでる訳。あっち向きとこっち向きにそれぞれ回っているから、飛行機のスピードはそのままでもまるで二倍のスピードで飛んでいるみたいに、時間が早く進んでしまうの。
時差っていう時間差があってね。ヘルシンキと関西国際空港だと9時間の時差があって、向こうはヘルシンキより9時間早いの。だから8時間飛んで夜の9時に着くのじゃなくて朝の6時に着くのよ。」
あまりのややこしさにメールボトル19は大混乱しました。
「あまり考えなくていいのよ。難しいことだから。でもほら窓の外を見てごらん。もう真っ暗でしょ。夕食が済んだらみんな眠るのよ。」
ニャーモさんに促されて窓の外を見ると本当に真っ暗です。いつのまにか夕方なんかすっとばして夜になったようです。
「わからないけど、分かった。じゃあニャーモさんもお食事終わったら眠るのね。あのね、前にどんなものでも自分の時計を持ってるって言ったでしょ。私の時計・・・まだ眠くない時間なの。ニャーモさんの時計はどう?」
と手紙さんが聞きました。
「・・・全然眠くないわ。でもね、到着は朝の6時なのよ。飛行機の中で少しでも眠らなくちゃ、明日の夜までずっと眠ることができなくて辛いわ。だから無理矢理寝ちゃう。」 ニャーモさんはそう言ってブランケットをかけて目をつぶってしまいました。
キャビンアテンダントさんたちは夕食の片付けをし、そして機内の電気を消しました。どのお客さんもニャーモさんのようにブランケットをかけて眠り始めました。中には眠らないで映画を見ている人などもいましたが。
メールボトル19は声に出さないで話しを始めました。
『時差ってよく分からないけど、でも今が昼間じゃなくて夜だってことは分かるわね。』 『私たちも眠った方がいいのかもしれないけど・・・前に疲れ果ててぐっすり眠っていたら突然飛行機がめちゃくちゃに揺れて、ボトルさん飛び上がってしまって。それからグーン、ストーンと落ちたのよね。だから眠るのなんだか怖い。』
『今日は大丈夫よ。あれはすごく天気が悪かったからでしょ。今日は乗ってすぐにパイロットさんからのアナウンスがあったじゃない。行き先までの天候は快晴です。って。』
『そうだね、あの時男の人たちが話していたものね。すごい悪天候でよく着陸できたなって。天気が良かったらあんなことはないんだよね。少し安心した。』
手紙さんとキリエさんはそんな話をしながら、やっぱり眠くならないのでずっと起きていました。飛行機は静かに飛んでいます。
やはり眠れない人も多いのか、キャビンアテンダントさんにお願いして、飲み物や食べ物を持ってきてもらう人も結構いました。
そんな時間を過ごしているうちに機内に灯りがともりました。そしてキャビンアテンダントさんがおしぼりをもってきて、それで顔を拭いて目を覚ますのでしょうか?そのあと朝食が運ばれてきました。
ニャーモさんも目を覚まして朝食を食べ始めました。
「なんだか寝たような寝ていないような変な感じよ。あなたたちずっと起きていたのでしょ?」
と笑いながら。
食事の後片付けを終えたキャビンアテンダントさんにニャーモさんは聞きました。
「あとどのぐらいでKIXに到着しますか?」
「あと1時間ちょっとです。」
「そうですか。あのお聞きしたいことがあります。関西国際空港は何故KIAではなくて、KIXと表示されるのですか?」
とても綺麗なキャビンアテンダントさんは、柔らかい笑顔を浮かべながら答えてくれました。
「三文字のアルファベットで表すものを空港コードと言います。(注:IATA表示。別に4文字で表すICAO表示がある)ヘルシンキはHELでしたでしょ。だいたいその空港のある場所にちなんだアルファベットを使います。日本では羽田はHND,成田はNRT,大阪伊丹はITM と言う具合に。それらの空港は結構古くからあった空港です。
でも関西国際空港は比較的新しくて、KIAにしたかったと思うのですが、もうAのアルファベットが他で使われていたので、KIXになってしまったみたいです。何故Xを使ったのかは私にも分かりませんが・・・・空港がどんどん増えてアルファベットが足りなくて数字のところもあるのですよ。」
ニャーモさんもメールボトル19も納得しました。お礼を言ってアテンダントさんに仕事に戻ってもらいました。
それを聞いていた手紙さんは喜びでいっぱいになりました。ニャーモさんが『関西国際空港』と行った時、もしかしたら日本?と思ったのですが、文字ではなく言葉だったのではっきり分かりませんでした。今キャビンアテンダントさんが『日本では』と、言いました。この飛行機は間違いなく日本のどこかに到着するのだと分かったのです。
飛行機は着陸態勢にはいりました。以前と同じように前に引っ張られる感じです。ニャーモさんはシートベルトをしっかり締めてメールボトル19をきつく抱きました。前に落ちていくような感じがして とうとうドッカーンという大きな音と、たたき付けられたような感じがしてそれからしばらくガタガタと揺れて、そして静かになりました。
関西国際空港に到着です。
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