第2話 続 遠い国の返事 上 旅の用意

その手紙の内容を聞いたキリエさんは飛び上がるようにして喜びました。あの素敵なサムハさんがお嫁さんになる!どんなに綺麗だろうね!ねえ手紙姉ちゃん、そう思うでしょと興奮したように言いました。

 手紙さんは実際にサムハさんには会っていないので、どんなかなあと想像するだけでした。ボトルさんもキリエさんに賛成したように、うんうんと頷いているようでした。そして自分の首にずっとかけてもらっている、サムハさんの大切にしていた珊瑚のペンダント覗き込むようにしているように見えました。

 そんなメールボトル19の様子を見ていてニャーモさんは考え込みました。

 ニャーモさんはいったい何を考えたのでしょうか・・・・・今は3月。まだピレンを動かすには早い。ピレン無理だね。じゃあどういう風にしたらいいのだろう?

 ニャーモさんは地図帳を取り出しました。それを熱心に見ています。

 「ここからこうしてこのルートからはどうなのかしら?」

 今はニャーモさんもパソコンを持っています。お仕事の関係で使うことが増えたので、ひとつだけの贅沢としてパソコンを買ったのでした。それを使って色々調べ出しました。

「ふむふむ。ここからこう行って、ここからはこれでいけるのね。そして次はこう行く。なるほどなるほど。それからどうなるのかしら?次は難しいわね。ああ、これだこれ!」 ニャーモさんはぶつぶつぶつぶつと独り言を言っていました。メールボトル19はそんなニャーモさんの様子を見て、また何か考えているな。いったい今度は何だろうと不思議に思っていました。


すると、

「私ちょっと出てくるね。ちゃんと留守番しててね。」

と言って上着を着て出ていきました。。まだ寒いけれども真冬とは違います。真冬のものすごい格好ではなく、着ていた服の上にトナカイの毛皮のコートを羽織って帽子をかぶって雪靴をはいただけでした。

 ニャーモさんは3時間ほどして帰ってきました。

「やっぱりまだ外は寒いわねぇ。でももう真冬じゃないから、息が凍りつくなんてことはないわ。今はもしかしたらとってもいい時期なのかもしれない。フィンランドはまだまだだけどね、よその国はいい季節なのかもしれない。」

 それからニャーモさんは自分が描いた布をいっぱい床の上に広げました。今は買わなくてもデザイナー分としてンケラドが布をくれます。ニャーモさんは床に広げたものを選び始めました。

 いつかこんな光景があったなあと、手紙さんはニャーモさんをじっと見ていました。

「まさかまた私たちを旅に出すんじゃない?だってだってニャーモさんはすごくたくさんの素敵なものを作って、サムハさんに送ってきたもの。今度は小包の中に私とボトルさんを入れて・・サムハさんの処に届けるの。私サムハさん大好きだけど、でもここに居たい。」

「キリエちゃん。そんな心配することないよ。ここが私たちの居場所だもの。あんな必死の思いをしてあなたとボトルさんを送り返してもらったのよ。あなたを手放す訳は絶対にないわ。 わたし達はただニャーモさんを見守っていたらいいだけなのよ。

 きっとね、宮子さんとサムハさんに何か作って郵便で送るのだと思うわ。」

手紙さんのその言葉にやっとキリエさんは少し落ち着いたようでした。


ニャーモさんは考えた末に2枚の布を選び出し、それから型紙を書きました。そして型紙の通りに布を切りミシンを取り出して縫い始めました。あの時と同じです。翌日もミシンで縫っていてその翌日もまたミシンで縫っていて、そしてとうとう二枚のお品が出来上がりました。

 ニャーモさんはそれらを見て、とってもいいわと満足そうでした。一つ一つを綺麗な包み紙で包み、赤いリボンをかけました。

 さてその後ですがニャーモさんは倉庫の中から大きなトランクを取り出しました。そしてあれやこれやとその中に詰め込み始めたのです。リボンで結んだお品も入れました。ニャーモさんは独り言を言っていました。

「私は何を着たらいいのかしら?寒いのはこの家の玄関を出た時だけね。後は別に寒くはないわけだから、トナカイの毛皮のコートは着ていく必要はないよね。そんなの着て行ったら荷物になるだけ。じゃあ一体何を着たらいいのかしら?」

 自分のクローゼットの中をあれこれ探していました。

「やっぱりこれにしよう。」

 ニャーモさんが取り出したのは、モーターサイクルに乗る時のライダースジャケットとパンツでした。靴もモーターサイクルに乗る時のブーツにしよう。メールボトル19はまだニャーモさんが考えていることがわかりませんでした。それでも着る服が決まったようでよかったねと思っていました。


どうやらすっかり用意が出来上がったようです。ニャーモさんはやっとメールボトル19に話しかけました。

「じゃあ、あなたたち。今晩寝たら明日出発するわよ。私たちはこれから結構長い旅をするの。でも手紙さんやキリエさんがしたようなとんでもなく長い旅ではないわ。」

 メールボトル19はニャーモさんに聞きました。

「一体ニャーモさんはどこに行くの?あなた達って言ったから、私たちも連れて行ってくれるのね?」

「もちろんそうよ。あなた達が行かなかったら意味ないもん。どこに行くかはとりあえず内緒にしておこうかな。その方がびっくりして楽しいかもしれないもんね。」

 ニャーモさんはひとりでにこにこ笑いながらくるくると回って踊っていました。フィンランド民謡を歌って

「さあ寝ましょう。寝ましょう。明日から旅よ。なんだかワクワクするわね。どんな旅になるかしら?楽しい旅にしましょうね。じゃあおやすみなさい。」

と言って眠ってしまいました。

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