続 遠い国の返事(第三部、完結編)
@Kyomini
第1話 続 遠い国の返事 上 二人からの手紙
あれから六年経った、まだ雪の残る三月。
世界中を巻き込んで大勢の人の命さえも奪ったコロナウィルスも姿を消し、またあちこちで起こっていた戦争もなんとか収めることができ、人々に平穏な毎日が戻ってきていました。
手紙さんもキリエさんもフィンランドの弱い太陽の光でも、ほんの少し黄ばんできたけれどそれでも相変わらず元気でした。もちろんボトルさんも。
宮子さんの書いた手紙さんはその性格を受け継いでいるのか、その年齢を受け継いでいるのか思慮深い感じで、キリエさんはそれを書いたニャーモさんの性格を確実に受け継いでいるらしく、明るくおしゃべりでした。手紙さんはあまり話をしませんでしたが、キリエさんが代弁するかのようにたくさんニャーモさんに話しかける、そんな毎日でした。
ニャーモさんはンケラドの正式なテキスタイルデザイナーになっていました。それで夏場に働いていた自動車の部品工場のお仕事をやめて、模様を描くことに専念していました。正式なデザイナーになったのでお給料もとても良くて、結構たくさんの貯金もできました。 たくさんお金をいただけるようになってもニャーモさんは暮らしぶりを変えようとはせず、清潔で質素な暮らしを続けていたのです。趣味はやはりピレンに乗ってツーリングをすること。海辺に行くと相変わらずゴミを拾っていました。
夏場になるとニャーモさんはメールボトル19を連れて、あちこちツーリングを楽しみました。雪が降り出すとピレンを倉庫にしまって、お家の中で図案を描く、そんな毎日を過ごしていたのです。
宮子さんとサムハさんとの文通はずっと続いていました。いつでも手紙が届くとメールボトル19に聞こえるように声を出して読みました。
三月、ニャーモさんは二人からほとんど同時に手紙を受け取りました。
宮子さんの手紙には、自分はかなり年をとってしまったので、今まで住んで居た夫さんが建ててくれた家を売って、海辺にある介護施設付きのマンションに引っ越しを決めたと書いてありました。哀しいことではないのですよ。とても素敵なマンションで自分のお部屋もあって、みんながお食事をする場所は、まるで高級レストランのようですと書いてありました。体はまだ丈夫、病気もしていませんが、それでも一人で暮らしていたら何かあったとき困ると思って決心したと。長らく夫と住んでいた、いっぱい思い出のあるお家を売ってしまうのはやはり寂しく心残りもあるけれど、こうしなさいと、夫が残してくれたのだと思って引っ越しを決めたのだと、そう綴ってありました。
サムハさんは大学を卒業して、自分の夢をかなえて海洋生物研究所にお勤めをしていました。届いた手紙は、同じ研究所で働いている男の人と、この度結婚することになりましたと言う知らせでした。
サムハさんはとても真面目にお仕事をしていたました。そんな様子をずっと見ていたその人が、サムハさんをとても気に入ってプロポーズしました。サムハさんもいい人だなと思っていたようで、結婚してくださいと言われて『ひとつだけ条件があります』と言ったそうです。それは結婚しても海洋生物の研究のお仕事続けたいと言う希望でした。
インドネシアでは結婚したら女の人は家庭に入り、家庭の仕事をする、子供を産んで子供を育てる。今でもそれが当たり前でしたですから、結婚してもお仕事を続けたいと言う希望は叶えてもらえないのではないか?もしだめならサムハさんは結婚するよりもお仕事を続けたいとその人に言いました。その人はサムハさんがとても優秀な研究員だということを知っていたので、サムハさんの希望を叶えてあげようと、結婚してもお仕事は続けて構いませんよ。と言ったのです。それでサムハさんは結婚を決心しました。と。そのようなことがお手紙書いてありました。
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