SS 2月15日

「なんかね。今日何の日か調べてみたら、かまくらっていうお祭りがある日みたい」

「ほう?」


 それはバレンタインの翌日、ネットで恋人とは何をしたらいいのか調べていた際に、そもそも今日は何かある日なのだろうかと気になって得たという妹の知識であった。


「もしくは釈迦入滅の日」

「2番目に持ってくる話題にしてはぶっとびすぎじゃね?」


 今ざっと調べたら「全日本スキー連盟設立の日」とか「You○ube設立の日」とか色々出てきたのに、なんでわざわざそれ持ってくるかね?


「そもそも入滅って何さ?」

「さぁ?」


 と思って調べてみたら「煩悩の炎が吹き消えた状態、宗教的解放を意味する解脱のこと」と出てきた。


 ……なるほど、わからん。


「とにかく! 今日はかまくら的なことをするから」

「的なことって何だよ? そもそも、それと恋人に何の関係があんだよ?」

「わ、わからないから、とりあえずやってみるんじゃん」

「なるほど……」


 でも、雪なんて降ってないぜ? 寒いけどお日様燦々だよ?


「まぁ、それっぽければいいかなって」


 そう言って、一緒に入ることになったのが……



 俺の部屋のベッドの下だった。



「……よりにもよってここ?」

「し、しょうがないじゃん! うちにかまくら的なとこ、ここしか無かったんだから!」


 まぁ、確かにうちには炬燵こたつとか無いもんね。


「で? この後、何するの?」

「何って……」

「……いや、考えてないんかい」

「お、思いつくと思う?! ベッドの下でする恋人らしい振る舞いなんて?!」


 そりゃ思いつく訳ないよね。

 だって恋人同士だってベッドの下に一緒に潜ったりしないもん。


 そうして、いつまでこうしてればいいのかなぁと呆れつつ、もういいかと俺が出ようとすると、隣に居る妹が頭を右へ左へ動かして何かを探し始める。


「……なにしてんの?」

「いや、こういう所にエッチな本を隠すんでしょ? だったら……」


 どうやら妹は俺のお宝本を探していたようだった。


 しかし、残念だったな。妹よ!

 このネットの時代では、エッチな物を見る媒体は変わっているのだよ!


「なるほど……つまりお兄のスマホには沢山あると」

「な、何故それを!?」

「……馬鹿なの?」


 くっ……妹の推理力を侮っていた!

 これは絶対に妹にスマホの中身を見せられなくな……


「ちなみに……お兄はどういう子がタイプなわけ?」

「え?」


 突然、ムスッとした顔でそんなことを聞いてきた妹。


 何故か頬を赤らめながら、ジッと俺を睨みつけるように見つめているが、そういうのは妹とする話題じゃなくない? と俺。


 流石にどんな女の子でエッチな気分に浸っているかなんて、語れるわけが……


「ち、違うし!! 別にエッチなことに限らず、お兄のタイプを聞いてるんだし!」

「あ、そうなの?」


 いつの間にか話題変わってたのね。

 そうならちゃんと言ってくれないとわからないよ? お兄は。


「でも……好みのタイプか~」


 そう言われて考えてみるも、基本的に好みって言われるほどこだわっている相手とかいないのが俺だった。


 だからアイドルのファンになったことは今までに一度も無いし、ゲームだってどちらかといえば「○○さんが作った物だから」で遊ぶことはほとんどなく、大抵は面白そうだからっていう理由で色んな人の作品を遊んでいる訳だから……


「話、ズレてない?」

「だから、特定の好みっていうのは無いって話」


 強いていえば、『ビビッと来た子』って感じだな。


「なにそれ? 本当はあるんじゃないの? 年下とか年上とか……と、年下とか」

「なんで年下2回言ったの?」


 しかし、それもやはり無いのが俺だろう。

 好きになった子がたまたま年下だったとか、年上だったとかそんな感じで。


「じゃ、じゃあ、性格は? そういうのはあるでしょ? 合う合わないとかあるんだし」

「それはそうだろうけど……」


 確かにフィーリングとかが合わない子と付き合ったりすれば、すぐその関係が破綻するのは目に見えているし、性格の不一致とかで離婚なりバンドだって解散する訳だし。


「だから話しがズレてるって……それより、何か無いの? どんな性格の子がいいとか」

「性格ねぇ~」

「……た、たとえばその……明るい子が好きとかさ」


 そうして、クルクルと指で自分の髪を弄り始めた妹の言葉を深く考えてみる俺。


「明るい子ね~。勿論嫌いじゃないけど……別にお淑やかな子だって嫌いじゃないし……」


 っていうか、どっちかっていうと陰キャなのが俺だから、明るい子よりはお淑やかな子の方が俺には合ってるかも知れな……


「ハァ!? なにそれ! ……う、嘘吐き!!!」

「痛っ!?」


 すると、突然足を蹴ってきた妹。


「な、なんだよ急に?! 暴力反対!」

「暴力反対じゃないし! だ、だって……明るい子の方が好きって言ったじゃん……だから、私……って! なに言わせんのよ、もう!!」

「いや、勝手に言ったのお前!!」


 そもそも、何の話してんの?!

 一体、いつの話してんの?!

 そして、誰の話してんの??


 さっぱりわからないんだけど?!!


「お、お兄の……馬鹿!!」


 そうして、かまくらという名のベッドの下から妹が出て行くまでに、何度も何度も足を蹴られ続けたのが俺なのでした。



 ……もう訳が分からないよ。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ちょっと短めなエピソードに関しては外伝って感じで配信することにしました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る