SS 2月17日
「兄さんの~、ちょっといいとこ見てみたい~」
「……急にどうした?」
中からカラカラと音がする、少なくともティッシュは入っていないティッシュ箱を手に、俺の部屋へとやってきた妹。
しかし、異様にダウナーな感じで言うその台詞には、流石に妹の病気を疑ってしまう俺でした。兄さん呼びも外でしかされたことないし。
「ち、違うし! 今日はガチャの日って書いてあったから。ちょっとガチャっぽい感じのことしようと思って」
「だとしても、そのテンションは無くない? せめて、楽しげにやれよ」
「だって……なんか恥ずかしいじゃん」
「じゃあ、言わなきゃいいのに……でも、なるほど。その中に入ってる紙を引いて、そのテーマにあった話をするのね」
それがガチャ要素と。
「そ。まぁ、お互いのことを深く知ろう的なのが恋人っぽいじゃん? 本当は天使のささやきの日とかいうエモそうな記念日があったんだけど……でもそれ、北海道で記録した最低気温の際に起きたダイヤモンドダストのことっぽいから、まぁ無理だなって」
「ダイヤモンドダストって、小っちゃい氷が降るとかそんなんだっけ?」
「さぁ? 詳しくは私も知らないけど」
と思って調べてみたら、ダイヤモンドダストは
……うん、大体あってる気がする。
「ちなみにその北海道で記録した最低気温って何度だったの?」
「-41.2℃」
「軽く死ねる……」
0℃を下回った日だって表に出たくないのに、-40って……
「後は切り干し大根の日とか」
「天使の後だと実家感スゴイね……」
田舎のおばあちゃんを思い出したよ。
……田舎のおばあちゃんの切り干し大根を食べたことがあるかどうかは覚えてないけど。
「でしょ? って訳だから……兄さんの~、ちょっといいとこ見てみたい~」
「いや、だからせめてテンションをだな……って、まぁいいか」
そうして、強制参加が余儀なくされている妹プレゼンツの恋人ごっこ(?)に、もはや抵抗感が無くなっていた俺は、ガシャガシャと中身を混ぜるように振ったティッシュ箱を差し出してきた妹に合わせて、その箱の穴に指を突っ込む。
すると、中には何枚かの紙が入っており、とりあえず手近にあった1枚を適当に摘まんで引き上げる。
「えっと……なになに? 初恋の相手は? ……って、お前」
意外と攻める質問じゃん。
「さぁ、どうぞ」
「さぁって言われても……いないけど……」
……って、なにこの屈辱感? そして恥辱感。新手の羞恥プレイか何かなの?
「ふ~ん」
「おい、なんだその顔は?」
おかげで彼女いない歴=年齢の俺だけど、それをほくそ笑むのは趣味が悪いぞ?
「まぁまぁ。それより次ね。兄さんの~、ちょっといいとこ見てみt……」
「って、また俺引くの?! お前も参加しろよ!」
エピソードトーク俺だけっておかしくない?
「いやだって……私は私のこと知ってるし」
「ミー、トゥー!!」
それ故の、お互いのことを深く知ろう的なのが恋人っぽいって話は何処に行ったの?!
「もう、しょうがないな~」
「え? 俺が悪いの? 俺が何か間違ったこと言ったの?」
「……えっと。……しゅ、趣味は?、ね。趣味はまぁ、料理かな? あと可愛い物集めとか」
いや、俺の話聞けよ。ったく……
そうして、意外と無難なやつを引いたなと思いつつ、やはり昔から一緒に暮らしているからか、聞かされても「うん、知ってた」と言わざるを得ない情報でもあったと俺は、これをこのままやる意味あるのかと妹に問うも、これはお試しだからと言ってきた妹の言葉には、納得せざるを得ないのだった。
「って、おい。何引いたやつ戻してんだよ? また同じの引いちゃうじゃん」
「いやだって、そもそも質問の数が少ないから」
その水増しのために互いが同じ物を引かない限りは紙は箱の中に戻すようだ。
だからと俺の引いた『初恋の人は?』の紙を戻しつつ、ふとこの企画はどれぐらいやるのだろうと聞いてみる。……まさか、全部やる気?
「いや? 私が飽きたらだけど?」
「発想がほぼジャイ○ン!」
決定権が俺に無いという意味で!
「ほら、いいから次引いて」
「良くは無いんだよな~。……ったく」
そうして俺は、無理やり突き付けられたティッシュ箱の中身を、渋々といった感じに再び引き上げる。
「……今、気になっている子は?」
また攻めた質問! って、2連続恋愛関係! 恥ずい!!
「で? 居るの? 居ないの?」
「ちょっ?! なんでそう、ぐいぐい来るの?!」
興味津々といった感じに目を光らせてまで。
「別にいいでしょ? それより、早く!」
「早くって……い、いないけど」
……って! やっぱり新手の羞恥プレイだよ、これ!!
たとえ居たとしても教えないけど、でも結局今はいない訳だから、結局羞恥プレイは変わって無いよ!!
「ふ~ん」
「って、だからその顔なんなの? お兄ちゃんの恋愛遍歴0がそんなに面白いの?」
「いや~? 別に~?」
くっ……やっぱりその嬉しそうな顔、なんかムカつく……
「それよりほら、お前の番だぞ」
そうして、箱を妹の前に持ってきた俺は、できることなら同じのを引いてしまえ! そして俺と同じ羞恥にまみれろ! などと浅ましいことを考えていたのでした。
……が。
「はいはい」
ガチャガチャと振った箱から妹が出したるお題は、「休みの日は何してる?」だったよう。
また当たり障りの無いやつ! 羨ましい!
2連続で恋愛遍歴が0だと言わされている俺としては交換して欲しい!
ちなみに妹の休日は最近は俺との恋人ごっこだが、昔は大体ネットで見つけた料理のレシピを試しているか、お袋がアレルギー持ちということで飼えない猫とか動物の可愛い姿の映った動画を見ているか、友達とどこかに遊びに行っているかな訳だが、実際その通りだったので割愛します。
こうして、再び俺の番。
そうして引いたのが、「初恋の人は?」であった。
「あ、かぶった」
「じゃあ、もう一回ね」
その紙は戻さなくていいからという妹に従って、そのまま新たな紙を引くと、今度は「彼女ができたらしたいことは?」であった。
「だから俺の恋愛関係引く率高くない!?」
どうなってんの?!
3枚中3枚って、確立100%なんだけど?!
「ガチャってそういうものだから。で? 何がしたいの?」
「何がしたいって……」
それがあったら今頃、この恋人ごっこの正解が出てるだろうに。
無いからこんなことになってるんじゃないの?
「でも、それは恋人らしいことがわからないだけであって、お兄が何がしたいかは別じゃん?」
「ま、まぁ、それはそうか……」
妙に納得させられたと俺は、懸命に考えてみるが、特に思いつくことは無い。……勿論、エッチなことなんて言ったら、妹にぶっ飛ばされるだろうから外しているけど。
「……そうだな~。まぁ、一緒にゲームかな?」
金かかんないし。
そもそも、デートってどこ行きゃいいのかわかんないし。
幸い、昔は妹とも一緒に遊べるようにって、親とかが買ってくれたパーティゲームが大量にあるから、一緒に遊ぶという点では困らないし。
「……ハァ。ありきたりな発想」
「しょうがないじゃん! 思いつかないんだから!!」
だとしたら、良いの教えて!?
そして、その発想力で恋人とのデートプランを考えられるようになって、この恋人ごっこを終わらせて?!
「はいはい。それじゃあ、次は私ね」
そうして俺の発言を無視した妹が引いたお題は、「願いが1つ叶うとしたら?」であった。
「って、おい! なんでありきたりな質問ばっか引くんだよ?! 確率絶対におかしいだろ!? そんなに枚数無かったはずだし」
「しょ、しょうがないじゃん。ガチャってそういう……」
と、妹が言い訳した時、妹の手に持っていた紙が少し透けているのに気付き、よく見ると見たことのある文字が透けているように見えた。
「ん? って、ちょっと待て! お前それ……」
「え? ……あ、ちょっ!?」
そうして、妹の手から取り上げた紙に書かれていた文字は、さっき戻した『初恋の人は?』であった。
「おい! 全然違ぇじゃねぇか! 願いごとがどうとか全く書いてねぇじゃねぇか!」
「……くっ、お兄の癖に勘のいい!」
すると、突然箱を投げ捨て部屋から逃げて去っていった妹。
一体何だと箱を拾い上げつつ、入っていた紙の中身を見てみると、全てが恋愛の話であり、妹が答えていた質問はどれにも書かれてはいなかった。
「あ、あいつ~!!!」
そうして今日という日は、俺が妹に恋人いない歴=年齢だということを口にさせられただけで終了したのであった。
……が。
「……お兄がどうしてもって言うなら、一緒にゲームしてあげてもいいよ?」
「え?」
何故か翌日からしばらくの間は、妹と一緒にゲームをする日が続きましたとさ。
……いや、なんで?
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どうも、蛙です。
今回はやや長めですが、更に読みやすい超短いお話を考えました。
ただ短すぎてサイトによっては配信できないようなので、X(旧Twitter)にて超ショートエピソード『140字で綴る恋人ごっこ?』として、9月1日の21時から毎日配信(イケる所まで)することにしました。
よければそちらもご覧になってくださると嬉しいです。
アカウントはこちら→『https://x.com/frog_in_i』
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