旅の終わり

 最果ての島はかつて戦場だった。魔法使いも人もたくさんなくなったその戦争はもう何百年も前の話だが、魔法使いの花ならばきっとずっと咲いていることができるだろう。花園を覆う花の数々。ソレは確かに形も色も、可笑しいくらいにバラバラだった。


 イヤな想像をしてしまったアルベルトは口元を抑え、アッシュは先生の杖をギュッと握りこんだ。



「なんてね、ちょっとしたジョークだよ」



 ひらひらと手を振るローレンは、またしても敵意のない笑顔を浮かべる。


「花はもう普通の花だから、安心して」

「質が悪すぎませんか……」

「長くここにいたら暇でね、ここに来る人をこうして揶揄うのが毎年の楽しみなのさ」

「悪趣味だぜアンタ」

「それはどうも」


 三人で元の石部屋へと戻っていく。ローレンを先頭に戻った石の部屋は、先ほどとは違って、なんとなく温かみのある部屋になっていて子供たちは唖然とした。

 机に積もっていた埃は無くなり、暖炉にあった山のような灰は消え。心なしか石の壁も温もりを灯しているようだった。


「さて、今年の巡礼もこれで終わりだ。二人とも用いた場所へ返してあげよう」


 そこに立ってごらんとローレンに指さされた場所には、塔に入った時と同じような不思議な模様……魔法陣が描かれており。ようやく帰れるのかと、子供たちはほっとした様子だ。

 しかし、ふっとアッシュは疑問を覚えた。疑問はすぐに解決しなければ収まらない性質なアッシュは、何の気なしに聞く。


「あんたは、ずっとここにいるのか?」

「そうだね。そう決めたのは俺自身だから」

「……あの、一人は寂しくないですか?」

「まぁ、慣れたかな」

「巡礼の時だけここに来ればいいんじゃないか?」

「そうもいかない理由があるんだ」

「理由?」

「放っておくとね、亡霊はきっとこの島から出て、大陸にまで足を伸ばす。それを防いでいるのが十三本の蝋燭による魔法陣と俺なんだ。だから、ここを離れられない」

「でも!」

「もう夜明けが近い。早く帰りなさい」


 いつまでもローレンの孤独をなんとかしようとする子供たちに、彼は優しく言い聞かせた。


「魔法使いの寿命は長い。たった数百年の孤独くらい、なんてことないんだよ。だから安心して君たちは君たちのすべきことをやるんだ。もうこの島みたいなことを繰り返さないように」


 そっとローレンが二人の肩を押す。

 たたらを踏んだふたりは、見事魔法陣の中へと足を踏み入れてしまい。


 二人が最後に見たローレンは、とてもとても、それは寂しそうな表情をしていた。


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