真実を
「燭台はこっちだ。さぁ、蝋燭を」
扉をくぐった先、ローレンは金の燭台の前で立っている。アルベルトはさっさと終わらせたい一心でローレンの方へ近寄って行った。
しかし扉をくぐったアッシュは、場を覆う異常なまでに濃い魔力に戦き足を引いた。サバトの会場だって神秘が色濃く残った数少ない場所だというのに、それ以上に濃度のある魔力。驚くなという方が無理がある。
「なんだこれ……!」
扉の向こうは何の変哲もない石の部屋。中央にぽつんと燭台が建っているだけの只の部屋のはずなのに。
理解できない事象に遭遇した時、拒絶してしまうのはなにも人だけではない。魔法使いも同じなのだ。まだ十年と少ししか生きていないアッシュであればなおさら。
見たことも聞いたことも無い眼前の威圧に気圧されて、冷や汗が伝い落ちるのを感じた。
「二人は花園を見て何を思った?」
「えっと、キレイな花だなぁって」
「花は確かに綺麗だった。でも、今冷静に花のことを思い出したら、ちょっと寒気がするな」
「それは、どうしてだと思う?」
アルベルトから受け取った蝋燭を燭台に差しながらローレンが問う。二人に背を向けて作業をするローレンの背中に流れ落ちている赤い髪は、アッシュの髪色と酷く似ていて。
二人が並んだらきっと親子か兄弟のように見えるのだろうか。
「なんでかは分からない。でも、なんとなく気持ち悪い……? いや、なんていうのかな、寂しい気持ちになる」
「寂しいって、あの花は死んだ人々への献花ですよね? その気持ちは、不謹慎だ」
「王子様はちょっと黙ってろ」
「君はまたそうやって……!」
懐かしの言い合いが始まるか。そう思った時、またしてもローレンが二人に質問を投げかけた。
「花の下には何があると思う?」
燭台の蝋燭を入れ替えて、そっと火を灯したローレン。くるりと振り向いた彼の表情は、逆光でなにも見えなかった。
顔の見えない魔法使いに、いつの間にか並んでいたアッシュとアルベルトは、首を傾げて思案する。
「土?」
「良質な肥料とかですか?」
「赤毛の魔法使い、君はホーソンの弟子だね?」
「え、そうっすけど」
「じゃあ魔法使いの末路は知ってる?」
「……え?」
蝋燭の火がゆらりと揺れてローレンの顔が一瞬見える。失望、恐怖、落胆、歓喜、困惑。
どう形容したらいいのか、彼は不思議な表情を浮かべていた。そのなにとも言い難い表情の魔法使いは、真一文字に結んでいた口をゆっくりと開く。
「魔法使いは、死んだ時に魔力が心臓に集まってそこから一つの形を成す」
『心臓』と言いながら左の胸辺りにそっと手を添える。柔らかく乗せられた手の平だったが、言い終わると同時にぎゅっと握りこんだ。
「大きさ、種類、形は違えど、ソレはみんなあるものの形になるんだ」
握りこんだ手をパッと開く。
それはまるで花が咲くかのよう。
ひゅっと誰かが息を呑ん音がする。それは今回の巡礼に選ばれた二人の子供たちから聞こえた。ローレンは冷たいまなざしで二人の反応を見つめている。
「まさかあの花は……」
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