塔
知らぬ話
「あれは……さっきはあんなの無かったはずなのに」
「隠されていたんだ、わざと。多分花園の周りの蝋燭全部に火をつけてようやく出てくる仕組みなんじゃないか」
「中に十何本目が?」
「恐らくな」
花嵐の晴れた花園の中央、そこには高くそびえる塔が建っていた。石造りの塔は森の木々よりも高く、島全体を一望できるほどの高さがあり。色とりどりの花々に対して物黒の塔は不気味なほどに場違いで、壁に蔦でも巻き付ければもう少しましになるだろうに。
そう思うくらい、花園の中に佇む塔は異質な存在だった。
「塔の中へ入ってみるか」
「でも」
「多分、中には魔法使いがいる。悪いヒトじゃないって言ってたから、何かをしてくることは無いはずだ」
「いやでも、不法侵入……」
「この期に及んでそんなこと気にするのか?」
「当たり前だろ」
「はぁ……十三本目の蝋燭を灯さないと帰れないんだ。早くしないと日が昇っちまうし、さっさと終わらせようぜ」
行き渋るアルベルトだったが、一人塔の方へ進んでいくアッシュに「待って」と言うと彼も歩き始めた。
塔までの距離は思っていたよりも短く、あっという間にたどり着いた。壁に沿うように見上げてもてっぺんの見えない塔に、二人そろってあんぐりと口を開けている。
「え、これ上り切れる……?」
「蝋燭が一番下にあることを願おうぜ」
木製の扉に手をかけて扉を引く。
ぎぃと音を立てながら開いた扉の向こうは、二人が願っていた燭台は無く代わりに不思議な模様が床に描かれていた。石の床に、黒ずんだ茶色のようなインクで描かれたそれは、円の中になにやら不思議な模様や言葉のようなものがぎっしりと詰められていて。
アッシュはそれを一目見て何か見抜くと、恐れる様子もなく近づいていった。
「転移の魔法陣だ」
「転移……この中に入ったらどこかへワープしちゃうってこと?」
「そういうことだな」
魔法陣に近寄ったアッシュは、その魔法陣が何かを確かめるためにしゃがみ込んで床に手を付いた。
その時、魔法陣が光り輝き開きっぱなしだった扉がバタンッと閉じて、魔法陣から光が伸びた。その光の先にいるのはアルベルト。
「え、なに⁉」
「心配すんなって、大丈夫」
魔法陣を見てこちらに危害を加える気はないと確信したアッシュは、しかしアルベルトに説明することも無く大丈夫だという。
「こっち来い」
光の手と一緒にアッシュもアルベルトに手を伸ばした。
アルベルトはアッシュの手と手招くように揺れる光を見比べると、自分から魔法陣の方へと足を出す。数歩歩いて辿り着いた魔法陣の中、アルベルトはアッシュの方を見やった。
「よし、じゃあいくぞ」
「え、いくってどこに?」
「さぁ。この魔法陣の示す場所へ」
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