仲良し逃避行
ずっと昔から尾を引く魔法使いと人間の溝は、彼らの邂逅からどれだけたっても埋まらない。何世代も後に産まれた彼らの中にも、もちろんそれは根付いていて。表向きは「和解しました」と言っているものの、人間は魔法使いを羨んで疎むし、魔法使いも人間のそんな態度に剣呑に目を細める。埋めようともがいて、なんとかしようとして、その結果がコレとは。先人たちの努力ももはや意味のないものになり果ててしまったようだ。
「魔法使いのことなんて知らないよ。どうして僕らを傷つける人を守らなくちゃいけないんだい?」
「守るも何も、オレ達はアンタらに何もしていないじゃないか。むしろ力を貸しているのに、なんでこんな仕打ちをされなくちゃいけないんだ」
魔法使いと人。不思議を扱う未知の存在と、大陸の過半数を占める人。交わるようで交わらない平行線は、ずっと昔から続いているものだ。共に生きたいという 願い、羨んで排除したいというたくらみ、他者を虐げたいという目論み。時代は変われど思い思惑は大抵こんなもの。
大陸の王族は五つの分家と一つの王家から構成されている。青年は、頂点たる王家の御子息で。この世界はだいだい王家の命令に逆らえない。王家が黒と言えば白でも黒になるし、白と言えば黒も白になる。それくらい王族の力というのは強いのだ。
「ふん。魔法使いなんて野蛮でどうしようもない奴らの集まりのくせに」
「なにを!」
そう言いアッシュが杖を構えた。
その瞬間、風の唸りが一際大きくなり、暗闇がゆらりと揺れた。地響きのような不吉な音が響き渡り、二人は耳を抑える。空気のうねりに合わせて地面も不安定に揺らぎ、アッシュと青年はぐらりと傾いだ。
「な、なに?」
「そこにナニかいる……?」
「なにかってなに?」
夜の帳が朝焼けで、夜空に光る星を太陽として日々を生きる魔法使いは、夜目が効く。魔法使いの弟子になってまだ時間の経っていないアッシュも、青年よりはそうだった。じっと暗闇に目を凝らし、そこにいる何かを捕らえようとしていたが、やがて暗闇にとどろくモノの正体を理解するとこう叫んだ。
「亡霊だ!」
「亡霊⁉」
「いいから逃げるぞ!」
おおおぉ、と唸り声を上げて迫る暗闇。ドロドロに溶けた暗闇は、生きている者を捕らえようと手を伸ばす。
アッシュと青年は必死になって走った。地面を蹴るたびにさくりさくりと音がする。花を踏み荒らしているのだろう、しかし暗闇が濃すぎて避けようもない。とりあえず二人とも逃げることに必死だった。
「おい王子様! 蝋燭どれだけ入れ替えた?」
「僕の名前はアルベルトだ!」
「へぇそうかい! で、何本だ?」
「十本!」
「残り三本か。とっとと終わらせるぞ!」
ぐるりぐるりと逃げ回り、小さく灯っている蝋燭を目指す。がむしゃらに走り回ってようやく見えたその灯。はるか向こうに見える小さな灯りに向かって走り出す。風前の灯火のような蝋燭に辿り着いた二人は、急いで蝋燭を取り出して入れ替えた。
「よし、次だ!」
「待って……もう走れない……」
「はぁ⁉」
時間にしてどれくらい走ったのかは分からないが、アルベルトは王子とはいえ体術訓練を日頃から積んでいる。そのアルベルトが疲労困憊するくらいの間走り回っていたのだ。随分な距離を走ったことには違いないだろう。
しかし、そうはいっても亡霊は止まってくれない。息を付き、苦し気に肩を上下させている間にも着実に距離を詰めてくる。ひゅっと顔の横をかすめた亡霊の手に、アッシュは冷たい汗がしたたり落ちるのを感じ取った。
「あぁ、もう! これっきりだからな!」
「え⁉」
アルベルトの手をぐいっと引いたアッシュは、ホーソンから預かった杖を一回転さるとソレに跨った。先ほどまで杖だった白檀は、いつの間にか箒に変わっており。引っ張った勢いのままアルベルトのことも箒に引っ張り上げる。
「走れないなら空だ!」
「ちょ、ちょっと!」
二人を乗せた箒はぐんぐんと上昇していく。やがて花園全体を見渡せるくらいまで上昇した箒は、空中でとどまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます