楽園

出会い

 光に包まれたアッシュは、その眩さに両手をクロスして目を閉じていたが、やがてサバトの会場とは違う木々の臭いを感じ取って目を開けた。


「ここは……?」


 サバト会場よりも暗く重い雰囲気の森。うっそうと生い茂る淀んだ木々はまるで怪物のようだった。上を見てもぶ厚い雲が覆いかぶさっており、辺り一面が途方もない暗闇のように見えた。


「果ての島は花園だけじゃなくて、周囲に森があるんだったっけ?」


 アッシュは獣道もない森の中を恐る恐る進んでいく。ひゅうと風が鳴るたびに人の叫び声のように聞こえ、木々の軋む音が獣の唸り声のように聞こえ。戦々恐々としながら慎重にアッシュは進んでいった。もちろん、先生の杖を大事に大事に抱えて。


「花園どこだ?」


 魔法使いは夜を好む。とはいっても、アッシュはまだまだ子供。夜の静けさと暗さに癒しを求めるには少々若すぎた。心細さに涙目になりながらも花園の捜索をしていたが、やがて先の方にぼんやりと灯りのようなものが見えた。


「もしかして花園の蝋燭か?」


 ややかけ足になりながらその灯りに近寄っていると、しかしその灯りはふっと消えてしまった。


「え」


 見えたはずの希望に放心してしばらく突っ立っていたが、次の明かりが見た。今度こそと思いアッシュはまた走る。


 しかし、その灯りも寸での所でかきて消えてしまい。あぁ、またかと彼は肩を落とした。


 見つけては消えて、見つけては消えた。


 妖精に化かされているのだろうかと思いつつ、心細さにアッシュは足を止めることもできなくて。そうして何度か繰り返した時、アッシュはようやく灯りにたどり着いた。


「やっと! 追いついた!」

「うわぁ⁉」

「え、誰?」


 そこにいたのは金髪に青空のような澄んだ瞳をした青年。暗闇の中でもはっきり見えるくらい、その青年は澄んだ色をしていた。黒ずんだ金色の燭台の前で驚いた顔をする青年は、アッシュと同じように年若くあどけない顔をしている。


「人間の代表って王族なのか⁉」

「たまたまだよ、別に毎年がそうっていう訳じゃない」

「へぇ」


 金髪碧眼。それは大陸の王族の証であり、絶対的な王者の象徴でもあった。

 生まれてから十五年、ホーソンの元にたどり着くまでは人として生きていたアッシュは、青年の見た目からすぐに身元を割り出し、そして一歩足を引いた。青年も青年で顔を歪めてアッシュから距離を取る。


「よりによって赤毛の魔法使いが同行者だなんて」

「は? なんだよその言い草!」

「赤毛の魔法使いは不吉の印。いつだって僕らに悪いことをするのは魔法使いで、それも大体赤毛だ」

「こっちだって、お前ら王族のせいで肩見のせまい思いしてるんだが?」


 険悪なムードが広がる。心なしか、暗い景色がさらに淀んだ気がするのは、気のせいか。

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