ひとまず収束
「あぁ、今年もか……」
「あら、元気なのは良いことよ」
「元気すぎるのも考え物だと思うけど」
「それもそうね」
「はぁ……」
どーんという爆破音に次ぎ、ばりばりと風に木々がなぎ倒される音。局地的な豪雨が降ったと思ったら、その雨も急に凍り付き。
阿鼻叫喚の大騒ぎのはずなのに、ホーソンもアザレアも呆れたように笑うのみ。アッシュは目の前で繰り広げられる魔法の応酬に目を丸くして驚いた。
「先生、これは一体⁉」
「ここ数年の恒例行事さ」
雷が落ちて木に火が付き、わらわらと魔法使いや魔女がローブを翻して駆け出す。年を重ねた一部の魔法使いたちはその騒ぎにこめかみを抑え、野次馬根性逞しい一部の魔法使いたちは杖を持ち。厳粛なはずのサバト会場は一気に混沌を極めた。
「アザレア、君の弟子だろう。なんとかしてくれよ」
「そんなことを言われてもねぇ。あの子を止めるのはもう私でも骨が折れるんだ。代わりにやってくれないかしら、ホーソン」
「ボクはこういうの得意じゃないんだって、君も知っているだろう?」
「あらあら、先の諍いで大活躍をしたのはどなただったかしらね」
「さぁ、なんのことか」
森と雪はのらりくらりと会話を交わす。もちろんその間も魔法の応酬は引き続き継続しており、あたりは見るも無残な様子になり果てていた。周囲の様子に目を走らせたホーソンは、いよいよまずいと思い杖に手を伸ばす。
「あとで覚えておいてくださいよ、アザレア!」
「よろしくね~ホーソン」
呑気にもアザレアがホーソンに手を振り、アッシュを守るように肩に手を回す。氷のように透き通った杖を持つアザレアは、雪と見間違うほど白い髪を揺らしながら何事かを唱える。
「 」
その瞬間、アザレアとアッシュを守るように薄く透明な膜が展開された。
吹けば壊れてしまいそうなその膜は、アザレアの弟子や、それに便乗して暴れている魔法遣い達の魔法をたやすく弾いた。
「凄い……!」
「アッシュちゃんの先生はもっと凄いわよ」
止めに入った魔法使いたちと相対する年若い男性は、ハイになっているのか声高々に呪文を叫ぶ。
アザレアとは対照的な、ホーソンと似ているようでそれよりも暗い黒髪をした男性は、アザレアと同じような杖を持って空を踊っている。
周囲で彼を止めようと必死になっている魔法使いたちは皆一様に疲れた表情をしているというのに、アザレアの弟子はひたすらに楽しそうだ。魔力切れなどなんてことないとでも言うように、ひたすらに呪文を繰り返し放っている。
そんな中、杖を構え淡々と、悠然に構える影が一つ。それは、アッシュの先生であるホーソンだ。彼は焦る様子もなく杖を動かしながら、高濃度の魔法を次々に放る。
「先生すごい……!」
「これが森の魔法使い、アンタの先生の実力さ」
アザレアがそう言うと同時に魔法の応酬がピタリと止んだ。ホーソンがアザレアの弟子を抑えたのだ。
「毎年毎年、君も懲りないね」
「放せよホーソン!」
「まったく」
ホーソンに首根っこを掴まれた青年は、木蔦にがんじがらめになっている体をよじらせて暴れる。
夜闇に溶けるような黒髪にホーソンよりも獰猛な金の瞳は、まるで獲物を狙う猛禽類。弟子はしばらくそうして暴れていたが、アザレアがひょいと杖を一振りすると沈黙した。
「はぁ……いい加減首輪でも付けたらどうだい?」
「そんなのこの子には何の意味もないさ。引きちぎってはい終わり。なんなら、今より酷く暴れるんじゃないかしら?」
「まったく……」
くぅくぅと眠る弟子を引き取ったアザレアは、ホーソンに軽くお礼を伝えるとその場を去っていった。嵐のような出来事にアッシュは呆然としていたが、こちらへ近づいてくる人影にまたしてもホーソンの傍へ寄る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます