森と雪と弟子たちと
光に包まれた二人は、瞬きの間に違う景色の中に立っていた。妖精や魔力が色濃く漂う神秘の森、サバトの会場である。
嘘みたいな魔法にアッシュは驚きに言葉を失っていると、先生にふと肩を叩かれた。
「さ、行こう。ボクの弟子を皆に紹介させておくれ」
にこりと微笑みウインクをするホーソン。高鳴る胸の音と熱の集まる顔に、今自分は魔法使いの一員だとアッシュは改めて認識し、数歩前で手を差し伸べる師の手を取ると、アッシュは元気よく「はい!」と返事した。
サバトの会場はすでに人……魔法使いや魔女で溢れかえっていた。至る所にいる長いローブの人々。杖を持っている一人前の魔法使いから、アッシュと同じく弟子入りしてすぐの新米、話に伝え聞く伝説を残した魔法使いや魔女まで。多種多様な魔法使いが集っていた。
「す、すごい」
「これが年に一回のサバトだよ。どうだいアッシュ」
「魔法使いや魔女がいっぱいだ……!」
キラキラと瞳を輝かせるアッシュは、師であるホーソンの弟子として恥じない振る舞いを心掛けるんだとあれだけ張り切っていたというのに。始めてみる景色、初めて見るたくさんの同族に、まるでおもちゃを買い与えられた子供のように飛び跳ねて喜んだ。
「おや、ホーソン。可愛い子を連れているじゃない。弟子かい?」
「アザレア」
ぴょんぴょん喜ぶアッシュを見て近寄って来た女性が一人。ホーソンが苦い顔をしながら呼んだのは雪の魔女の名前だ。
妖艶な笑みを浮かべてゆったりと歩く魔女は、美しいと評するほかになんと評すればいいのだろうか。歩くたびに揺れる雪の結晶を模したピアスがからりと鳴る。
氷のような瞳で魔女に見つめられたアッシュは、ぴゃっと飛び上がるとホーソンの背後に引っこんだ。彼女に見つめられて平静を保てる者などごくわずかだろうが、あまりにもわかりやすいアッシュの動揺に、アザレアは上品に微笑む。
「弟子を取らないことで有名なアンタがまさかとは思ったけれど。なるほどね」
「この子は弟子になってまだ日が浅いんだ。あまり揶揄わないでやってくれ」
「そうね、同胞には優しくするべきだわ」
庇うように弟子の前に立ったホーソンだが、くるりと回り込んだアザレアによりそれも意味をなさなく成り。アッシュはホーソンの背中で縮こまっていた。
「こんにちは、坊やの名前を教えて頂戴な」
背中で小さくなるアッシュに、アザレアは甘く問いかける。答えたくなるようなその問いかけは、きっと人間が相手であればすぐに効果をなしただろうが、曲がりなりにもアッシュは魔法使いの弟子。自分の意思とは関係なく開きそうになった口を押えると、先生の方を仰ぎ見た。
「アザレアは大丈夫だよ。名前を教えてあげてごらん」
先生の優しい声でアッシュはようやく警戒を解く。
「アッシュです。森の魔法使いホーソンの弟子、アッシュです」
「アッシュ……いい名前ね。私は雪の魔女アザレアよ。よろしくね、アッシュちゃん」
よろしくお願いします、そう先生の影から出たアッシュが応えようとしたとき、どこからか爆発音が聞こえた。
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