第10話 銀鬼との訓練

現在、俺はスズネと組み手を行っていた。

しかし、正直差がありすぎて実力が身についている気がしない。

美少女と組み手なんて役得だと思われるかもしれないが、


「ほれ」

「いっだ!」


足を払われて頭から迷宮の硬質な地面に激突する。絶対これ頭潰れてるだろ…と思うような感触が伝わってくるのだが、触れてみるとなんともない。ステータスが上がったからだろうか。


「んぁーもう無理!スズネ速すぎるわ。何やってるのかわからんもん。」

「純粋に経験とステータスの差だ。めげるな。理想と現実の差を悲観的に見ず、エネルギー源に変えろ。」

「って言われても、スズネの動き方凄すぎるんだよなぁ…」


超スパルタである。

組み手で体が密着する際、どうしても邪な気持ちが湧いてしまうのだが、何故か敏感に察知されて次の瞬間ジャーマン・スープレックスである。

怖い。


ダンジョンでモンスターと戦わされた時は、


「なぁ、モンスターの動きが全く読めないんだけどどうすればいい?」

「集中していれば自然と読めてくるだろうそんなもの」

「簡単に言ってくれるなぁ…集中ってどうやるんだよ」

「観察。とにかく、相手を観察しろ。集中とは観察の果てにある。目に見えるものをよく観察しろ。」


むずいって。

彼女は超絶スパルタな上に天才肌なのだ。


「私が天才なんじゃない、お前の運動神経が壊滅的なだけだ」

「はいはいすいませんでしたね。褒めて伸ばすっていう選択肢は無いんですか?」

「無い。キショいこと言ってないでモンスター狩ってこい」


鬼畜である。


なお、生活環境は何故か完璧に整っている。

住居、食料、エリクサーを始めとする各種高級薬品などなど。

おかげで生活には全く困っていない。


何でなのか尋ねてみたら、「怠惰の迷宮なんだから怠惰に生活できるだけの環境くらい用意されてるだろ」と適当な返事が返って来た。

何か濁された気がするけど深くは聞かないでおいた。



とにかく、俺はこの二ヶ月、必死に鍛錬を積んだ。

そのおかげで、79階層までのモンスターなら軽くあしらえるようになっていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


79階層。


ロンゴミニアドで片足を破壊したグールに、ユニークスキルを発動する。


「台無し」


その瞬間、黒い闇がグールを覆い尽くす。


「ア゙ァッ!!ア゙ァァァ!!」


断末魔を叫びながら、グールの肉体が崩壊してゆく。


これが俺の新しく得たユニークスキルの力だ。

闇で包んだ対象を崩壊させる。強力なスキルだが、欠点は闇の動くスピードが遅いことだ。


「ガァッ!!」


グールが足を引きずりながらも闇から抜け出してしまった。そして俺に狙いを定めて、片足とは思えないスピードで俺に迫ってくる。


とんだ欠陥スキルだと最初は思ったが、俺はこの欠点を克服する方法を派遣した。


「闇纏」


ナイフへと形状変化させたロンゴミニアドに台無しの闇を纏わせる。


グールの噛みつきを左手でいなし、潜り込む。

そして一気にナイフを胸に突き立てた。


「ガ、ガグァ…」


武器に纏わせることで、スピードの遅さを克服した。むしろこれが本来の使い方のように思える。


ロンゴミニアドとの相乗効果で相手の肉を乱し、崩壊させる。


「いっちょ上がり」


グールは魔石も残さず消滅した。調整すれば魔石だけ残して崩壊させることも可能だろうが、まだそこまで精密なコントロールはできない。


続いて、二体のグールが出現して来た。

俺は2丁の拳銃を取り出して構えた。



ある日、スズネに突然白と黒、2丁のリボルバーを渡された。


『お前、これを使ってみろ。』

『銃!?』

『あぁ。魔銃だ。白いほうはナキメと言う。魔力でできた弾丸を発し、電気など様々な付与効果を与えることができる。』

『テーザー銃じゃん…すげぇ』

『?てーざーじゅうが何だか知らんが、次にいくぞ。
黒いほうはガレスと言う名だ。土魔法が付与されていて、勝手に弾丸を装填する。そしてその威力だけで見ればナキメの比ではない。
加減を調節しなければモンスターだけでなく迷宮の壁にも風穴を開けるぞ。』

『すげぇ…ちょっと強すぎない?』

『この迷宮の最下層にある遺物だから当然だ。ありがたく受け取れ』

『…なんでこんなもの俺にくれるんだ?』

『愚問だな。お前が強くなればそれだけ迷宮攻略が捗るだろう。恩返ししたいと思うのなら、さっさと強くなって百層にいるボスを倒せ。』

『…あぁ、必ずそうするよ。』


依頼の前報酬としてもらったのがこの2丁のリボルバー、ナキメとガレスだ。


「よし、ちょっと試してみるか」


俺はナキメから雷弾を撃ち出し、グールを足止めする。

そうやって動きを止めたところで、ガレスで頭部を撃ち抜く。


パパァンと凄まじい音を立ててグール達の頭部に穴が空いた。


「すげぇ…とんでもないもんを貰っちまったな…」


改めて、心の中でスズネに感謝した。


「「ガァァ!!」」

「うぉっ!!」


いつのまにかグール達が動き始めてる。そうだった、こいつら不死属性持ってるから中々死なないんだった。

スズネによれば、不死属性は怠惰系統のモンスターの特性らしい。

倒すには、魔石を破壊するか、肉体を隅々まで破壊しつくすか、それか


「闇纏」


ガレスに台無しの闇を纏い、改めて頭部を打ち抜く。

今度こそグールは魔石を残し、霧散して消えた。


怠惰系統のモンスターを倒すには、以上2つの方法か、同じ怠惰系統のユニークスキルで倒すしか無いそうだ。

どうやら、怠惰の迷宮の攻略が全然成されてなかったのはこれらの理由があったらしい。

今まで、誰も怠惰系統のユニークスキルを発言させたことが無かったから。


以前、スズネに聞いたことがある。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「なぁ、スズネは迷宮の主なんだよな」

「あぁ」

「迷宮の主っていうのは勇者にユニークスキルを授けたり色んな祝福を授けるもんだろ?」

「まぁ、普通はそうだな。」

「じゃあスズネはどうして今までどの勇者にもユニークスキルを授けなかったんだ?」

「したくてもできなかったんだよ。」

「?どうして?」

「怠惰の権能っていうのは、そもそも不死者に適したものだ。生者に扱えるものじゃない。」

「じゃぁなんで俺はユニークスキルを得れたんだ?」

「お前自身が不死者になったからだ。」

「ふぇ?」


また訳わからんこと言い出したよこの子


「お前は私の心臓を喰らっただろう。その時、お前は私の鬼族、不死者としての性質を受け継いだんだよ。ステータスにも表れてたろ?」

「あれそういう意味だったんだ…驚き」


半鬼ってそういう意味だったんだ…ほんとに人間やめちゃったのね、俺


「私の心臓はお前の心臓と融合した。見てみるか?」

「どうやって?」

「胸を開く」

「できるわけねぇだろ人形か俺は」

「試してやろう」


そう言うと彼女は俺の胸に指を差し込んで、ブチブチと開き始めた痛い痛い痛い


「やめてやめて痛い痛い痛い」

「痛いで済んでる時点で、痛覚が麻痺し始めてるのが分かるだろう。ほれ、見てみろ」


彼女はボキっと俺の肋骨を折って(おい)、心臓を指さした。


そこには、確かに二つの心臓が絡まり合うようにして脈打っていた。


「おぉ〜」


なんか綺麗

と思いながら見てたら、ミチミチと音を立てながら肉体が修復を始めた。


「何これキモっ」

「お前は不死者になったと言っただろう。半分だけだけどな。私のほうの心臓を完全に破壊されたら普通に死ぬから気をつけろよ。」

「うす」


普通心臓以外でも破壊されたら死ぬので、素直にありがたい気がする。

ただ不安なのが、人間社会に戻った時俺は果たして人として受け入れてもらえるのか…?

何かの拍子に怪我をしたら魔人になったということがバレてしまう…


俺は高揚と不安がないまぜになった複雑な感情に苦しんでいた。


スズネのほうを見ると、俺の肉体を引き裂いた返り血で全身を汚していた。


返り血に染まった彼女の姿は猟奇的で、それでいてどこか神秘的な美しさを秘めていた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



と、言うわけで、俺は不死者の仲間入りになったから怠惰系統のスキルを扱えるらしいです。ここのグールさん達の仲間入りですね、イェイ


ちなみに今のステータスはこちら



ーーーーーーーーーーーーーーー

田中春樹

種族:半鬼人

レベル76

ユニークスキル:台無し

スキル:ナイフ術(中級)

    体術(上級)

    槍術(上級)

    銃術(初級)
    

    鳥瞰透視

持ち物:ロンゴミニアド

    ナキメ

    ガレス

ーーーーーーーーーーーーーーー


だいぶ強くなったんじゃないですかね。2ヶ月前からすると飛躍と言っても過言ではないですよ、これは。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る