第9話 一方その頃地上では
オライリーは焦っていた。
ハルキは知らなかったが、勇者の生存を確認する遺物が存在する。
その遺物が、ハルキの生存を示しているのだ。
それは、ハルキが奈落に落ちてから一ヶ月経っても変わっていない。
独断専行で王命を破り、勝手に勇者を殺害しようとした挙句、仕留め損なった。
おまけに、怠惰の迷宮の中層〜下層に潜んでいると予想されるため、今まであった「いつでも殺せる」というアドバンデージを王国は失った。
実質的に、勇者枠を丸々一つ失ったのだ。
大失態である。
彼は筆頭宮廷魔術師としての権限を全て失い、今や末端とは言え王族であるという事実のみが彼の最後の首の皮である。
もはや、彼に残されたものなどほとんど無かった。
彼は失敗したのである。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
エリスは怠惰の迷宮を奔走していた。ハルキの捜索だ。
生きているならば、自分が迎えにいかねばならない。
彼女は最大多数の最大幸福を願っている。そのため、時には大多数のために少数の犠牲を容赦なく切り捨てる。必要とあらば自分の手で、その優しい心を痛めながら、それでも人類のために。
しかし、そもそも彼女は慈悲深い聖者なのだ。
無意味に一人を切り捨てるような真似は決してしない。
自分一人の犠牲で済むなら、彼女はたった一人の民ですら救おうとする。元来そういう気質を持っているのがエリスという少女なのだ。
この一ヶ月、彼女は寝る間も惜しんで迷宮を探索した。50階層までを隅々まで探索しつくした。それでも見つからないということは、
「51階層以降…!」
未だに人類の到達できていない領域に彼だけが取り残されているということだ。
しかし、彼女はそこまで探索範囲を広げることができない。
10階層ごとに現れる強力なボス、その内50層のボスをどうしても攻略できないからだ。
ヒュージ・スケルトン。
怠惰系統のモンスターの中でも凶悪な不死の属性を持っており、攻撃を加えても即座に骨を集めて再生してしまう。
弱点は胸の奥にある魔石だけ。
しかし、その魔石は幾重にも骨片で覆われ、決して攻撃が届くことがない。
少しずつ削ろうにも、骨の再生速度が尋常じゃない。
まさに「攻略不可能」。
強いていえば、強大な攻撃力で一撃の元に破壊しつくせば葬り去ることができるかもしれないが、剣聖である自分といえどそんな攻撃手段は持ち合わせていない。
勇者を何人か集めればそんな攻撃を出せるかもしれない。しかしそれは不可能だ。
勇者は基本的にマイペースで、自分にとって旨みのない怠惰の迷宮に決して潜ろうとしない。旨みがないからだ。
既に別の迷宮からユニークスキルを授かっている勇者達は、自分に合った迷宮に潜った方がメリットが多い。多くの財宝や遺物がそこから得られるからだ。
だが、怠惰の迷宮からユニークスキルを授かった勇者はいない。怠惰は何者も愛さないのだ。
故に、勇者の援軍は期待できない。
かといって、中途半端な戦力ではエリスの足手纏いとなる。
そのせいでここ1週間、彼女は一人でヒュージ・スケルトンに挑み続けていた。
しかし、その努力が実ることは無かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます