第2話 ダンジョン



レベルアップ。対象の超克による魂の譲渡。


誰しもが持っている魂。相手を殺すことで、その一部を吸収することができる。

そして魂の総量が多ければ多いほど、そしてその質が高ければ高いほど、その者の戦闘力は上がる。


その過程で魂は、「磨かれる」


自分より強い相手であるほど、その現象は顕著になる。


それを示すのがレベルだ。

神が与えた指標。

強さを表す、絶対の数値。


通常、自分よりレベルの高い相手には決して叶うことはない。


ただし、スキルの使い方次第ではレベルの壁を越えることができる。

使い方次第では、どんなスキルも強力な武器になるのだ。


俺は今、ユニークスキルを発現させるために傲慢の迷宮に来ていた。レベルが上がることで魂と肉体が強化され、十分に強度が備わった時、迷宮からユニークスキルを授かるらしい。


壁は何か未知の物質でできている。陶器ともコンクリートとも違う、不思議で滑らかな白い石材でできていた。


証明はないが、蛍光灯の点いている室内のように明るく、そこに不快感が無い。

なんとも不思議な感覚だ。


「おいハルキ、スキルが発現するまでは何があっても俺たちが守ってやる。だから安心してモンスターを狩れ!弱らせておいてやるから、最後のトドメだけ刺せ。普通に戦って勝つよりは得られる経験値は少なくなるが、それでもレベル1のお前ならすぐにレベル5まで上がるはずだ。それまで頑張れよ!」


アルグス団長がそう激励してくれる。ならば俺もそれに応えなければなるまい。


頭の中で軽く念じると、目の前に近未来的な表示が出てくる。これがステータスだ。


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田中春樹

種族:人間

レベル1

ユニークスキル:無し

スキル:無し

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スキルは既に授かっているようだが、まだそれがステータスに反映されていない。

「肉体に馴染んでいない」と言ったほうが精確だそうだ。


大体レベル5になったあたりで肉体がスキルに耐えれるようになり、そこでやっと、本当にスキルを授かったと言えるそうだ。


「早くレベル5になれるように頑張ります」


「うむ!」


そういって団長はニッコリと笑った。


それにしてもよく笑う人だ。召喚初日の仏頂面はなんだったんだよ。めちゃくちゃ話しやすいじゃねぇか。


「団長、なんで最初あんなに怖い顔してたんですか?正直めっちゃビビってました」


「ん?そりゃ立場を分からせるためだ」


めっちゃ正直やん

びくったわ


「言っていいんですか?そんなこと」


「うん、お前が期待以上にビビって素直に言うことを聞くからな、正直舐めてる」


めっっちゃ舐められてた

いや、本当のことだから言い返せないけどさ

普通社会人ならもうちょい遠慮するやん…


しかも俺ら会って二日目なのに何この距離感。

陽キャ怖っ




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「ハッ!!」


ザシュッという音と共に、1mもあるトカゲの首が落ちる。

デカすぎてもはやワニだ。


弱ったところにトドメを刺すという作業を、もうかれこれ15回は繰り返している。


ステータスと念じる


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田中春樹

種族:人間

レベル4

ユニークスキル:無し

スキル:無し

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よかった、もう少しだ。


「今、レベル4になりました。もう少しでレベル5になりそうです!」


「おぉ、そうか!それじゃあもう少しだな!」


団長がめちゃくちゃ嬉しそうだ。


そりゃあ大変だったもんなぁ、なんかこのワニそこそこ強そうだし。

本当は俺じゃあ手も足もでないんだろうな。

こんなに贅沢なレベリングをさせてもらえているのも、俺が勇者で、強力なスキルを約束されているからだろう。


それからまたワニ5体ほどにトドメを刺した。


「ステータス」


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田中春樹

種族:人間

レベル5

ユニークスキル:無し

スキル:無し

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あれっ?


「団長、レベル5になりましたよ」


「おぉ!それでどんなユニークスキルだった?肉体強化系か!?魔法系か!?」


「いや、無しです。何も変わらないっすよ?」


「………え?」



めっちゃアホ面で驚いてる。めっちゃ驚くやんおもろwww







…え?なんかみんなエグい深刻な顔してるじゃん…もしかして笑ってる場合じゃないかんじ?



その後、俺は暴食、嫉妬、強欲、色欲の迷宮に潜ってレベル上げを行ったが、どこでレベルを上げてもユニークスキルを授かることは無かった。


…もしかして、俺マジでヤバい感じですか?






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