[100PV感謝!!]勇者召喚されたのに俺だけスキルが無いんですが?

高校五年生

怠惰迷宮

第1話 異世界召喚

「お前は私のことを信じてたっていうけどな、それは自分の中に作り上げた私の理想像に勝手に期待してたんだ。だから裏切られたとか期待してたとか、聞くに耐えない戯言を吐ける。」



銀髪の少女は朗々と語る。


「実際のところはな、私を構成する要素のうち、お前に見えてなかった部分が見えただけだ。」


この後に及んでなお現状を理解できていない俺に向かって、一つずつ諭すように。


「唯一信じられるのは自分だけだ。信じられるのは、相手がどんな要素で構成されていようとそれを受け止められる揺るがない自分がいるという事実だけだ。」



しかしそれは、「信じれるのは己のみ」という、孤独な結論だった。


美しくも儚い言の葉だった。





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眩い光に包まれてから、どれだけの時間が経っただろうか。物音も聞こえない。まるで宇宙空間に突如放り出されたかのように思えるような時間がしばらく続いたあと、ざわざわと騒ぐ音が聞こえ出してやっと目を開いた。


そこは真っ白な広間だった。巨大な広間だ。見るからに高級な石材がふんだんに使われており、柱と天井には精緻な彫刻がなされている。


壁にはいくつもの絵画が飾られていた。どれも世界的名作と言えるほどの迫力を持っている。この空間を建築させた者の富と権力を一目で理解させられた。それこそがこの空間の目的なのかもしれない。この空間に足を踏み入れた者に、立場を理解させる。


そして、俺の正面には鎧を纏った兵隊達がぞろぞろと並んでいた。これもまた威圧感を与えていた。


その内の一人、中心に立っていた一回り大きな男が進み出てきた。


纏っている鎧が一人だけ豪奢なことを鑑みるに、リーダーか何かだろう。


そいつが鎧をガチャガチャ鳴らしながら、低く雄々しい声で話しかけてきた。


「勇者よ、よくぞこの世界へやってきてくれた。私は騎士団長のロイ・アルグスだ。端的に言う、人類の存亡のために命をかけて戦ってくれ。」


唐突にそんなことを言われた俺は、あぁ、これが夢にまで見た異世界召喚か、と場違いにも胸を震わせていた。


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現在、俺は部屋を移動させられ、詳しい説明をされることになった。

部屋の大きさはそれほど大きくないが、この部屋も見事としか言いようが無い。

美術など詳しく無い自分でも、部屋の隅々まで意匠がこらされているのがわかる。空間の配置に工夫がなされているのが伝わってくる。


俺を威圧すると同時に、歓待していることを示しているのだろう。実際、俺は完全に雰囲気に飲まれてしまっていた。そりゃ緊張するだろこんなん…


それにしても男しかいないな。さっきの兵士たちついてきてるんだよな。20人くらいいるよ。むさくるしいよ。ここは痴女みたいな格好をした女神官とか聖女とか王女が定番じゃない??

いや、騎士団長ってめちゃくちゃ偉い人だからわざわざ出張ってきてくれてるのはありがたいんだけどさ、こう、俺の夢といいますか、描いていた理想像からは早くもズレてると言いますか…どうしてこうなった…


「タナカ・ハルキと言ったな。突然呼び出されて混乱しているだろうから、説明させてもらおう。」


そういってアルグス団長は長々と話始めた。


この世界には一つだけ大陸がある。一般的にこの大陸のことをタナトスと呼んでいるらしいそして、そこには主に二つの種族がそれぞれ国を作って住んでいるらしい。それが人間と魔人だ。

人族は王国を形成しており、名をアリア王国と言うらしい。一方魔人のほうは特に国名などなく、一般的に魔界と呼ばれているらしい。


なんか魔人側からするとこの世界は自分のものなんだからわざわざ国名などつける必要などなく、ただ単にタナトスと呼べばいいとかなんとか。傲慢だなぁ。

しかしその態度を裏付けるくらいには魔人は種族として強力で、何百年も続く対立、戦争の果てに人類は大陸の東端においやられているらしい。


このままでは人間は絶滅してしまう…そんな時、召喚の秘術を宮廷魔術師達が開発したらしい。それが数十年前のことだ。

数十年前から、数年ごとに地球から異世界人を召喚しているらしい。マジかよ。


異世界人の魂はこの世界の理から外れているため特別らしい。全員、何かしら強力なユニークスキルに目覚め、そしてその成長速度が現地人の比じゃないらしい。

その強力なユニークスキルを用いて、召喚者は迷宮に蔓延る強力な魔物や魔界の魔人達と勇敢に戦ってきた。


故に召喚者は勇者と呼ばれる。


正直、これらの説明を受けて俺はワクワクが止まらなかった。

しかし、だからと言って大人しく受け入れるにはリスクがでかい。わかったとすぐに受け入れたくなるのをこらえ、俺は交渉することにした。


「それで、勇者になったら俺に何のメリットがあるんだ?」


「望むものをなんでも与えよう」


即答だった。


「富。名声。地位。勇者になれば望むものがなんでも手に入る。女も与えよう。国から選りすぐりの美女だ。お前が地球にいても一生手に入れることが叶わなかったであろうものが、勇者になるだけで全て手に入る」


そんなこと言われたら断れないじゃ無いか……!!!


俺はOKを出した。


これで、俺はタナトスの勇者になり、輝かしい生活を送れる


…はずだった。

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