4月18日

 失恋した俺を慰めてあげるというテイで女の先輩二人が下宿先に泊まりにきた話。や、確かに仲は良かったし専攻している分野が一緒で同ゼミの先輩後輩でもあったっちゅうのはあるがナメとる。当時はなんもかんもが自棄気味で自分のことを世界で一番可哀想な奴だと思っていただけに「なにが慰めじゃい」と腹を立てていたように思う。とりあえず三人でお好み焼きを食べて奢ってもらったので人として「ありがとうございます」は言った。

 自分の部屋で事の顛末を独白させられる俺はそれが新手の精神攻撃で、俺が捕虜なら国の行く末を左右する機密情報を吐いたほうがマシまであるぞと感じていた。何か彼女達なりに真剣に話してくれたような気もするが覚えていない。もう終わったことであり、とやかく吟味したところでなんの慰みにもならんさ俺より可哀想な奴なんていないからなと自分自身も大概であった。それでもお好み焼きの恩はあるからその分だけは報いるようもてなしたつもりではある。

「そろそろ眠いわ」

「は?」

「あたしとMちゃんでベッド使うから床で寝てな」

「マヂで泊まるつもりか。帰れよ!」

「電車ないから」

「徒歩で帰れ!」

「ほなおやすみ」

「この(人権問題に抵触)!!」


 マヂでベッドが占領された俺は全然寝れなかった。目がバキバキに冴え渡り、人のベッドで無防備にスヤる女ふたりのことを考えると変な気を起こしそうになる。俺は俺自身と変な気に向かって早く寝るべきだとしきりに言い聞かせ床の上で無我の境地に至る羽目になった。気がつくと金縛りにあっていた。相変わらず視界だけはガンギマリながら体がピクリとも動かない。金縛りは決して怪奇現象ではなく科学的に立証された生理現象にすぎないとはわかっていても事実動かない体に焦りがあった。動けよ動けったらとどれだけ念じても俺はモビルスーツのことなんてアニメで見ただけで操縦なんてこれっぽっちも、何の話だっけか。

 なんとかしなきゃと思って寝てる先輩に「助けて」とか言ってみるがそれがちゃんと声になっているのかも定かでない。どうせ聞こえないならと「助けてくれないなら抱かせて」と言ってみようかなと思ってはみたがこんな時に何どうしようもないこと考えてんだと情けなくなった。自然と泣いた気がする。神様なんていやしないなと激しく思った。


 新しい朝が来た。俺は既に金縛りを克服しベランダに出て風を浴びていた。

「おはよう」

「おはようございます」

「あ、彼氏から着信入ってるわ」

「早よ帰れ」

「こないだコイツ酔って暴れて捕まってさ」

「そんな話聞かすな朝から」



 その節はありがとうございました。

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