4月10日

 『ボボボーボ・ボーボボ』を全巻買った。電子版の集英社作品がいくつかポイント還元率50%になっており実質半額だったからだ。いつかの俺は電子書籍というものに対して食わず嫌いがあった。本というものは紙こそが至高でありデジタルには手触りがないとしてそれを否定してきた。何がそこまで思わせたのか今となっては定かでない。アニメ『PSYCHO-PASS』の登場人物である槙島聖護が劇中にて「紙の本を読みなよ」と吐いたセリフにはひどく頷いてみせた俺だが、それも今聞くとなんだか説教じみている。紙には馴染みがある。幼い頃、あるいはついこの前までそれしかなかった俺にとって紙の本への親しみ自体は変わらない。かといって電子書籍を忌避する理由にはならなくなった。まず場所の確保が容易である。端末さえあれば部屋の一画を支配する置き場の必要がない。『ボボボーボ・ボーボボ』を全巻持ち歩こうとした時、それが紙ならば重力だけれど電子版なら究極スマホ1台あればいい。この利便性を受け入れた途端に「聖護くん、バカ言っちゃいけないよ。出先でも野外でも病める時も健やかなる時もその瞬間読みたいでしょボーボボ全巻」と反論してみせた俺だ。紙には紙の、またデジタルにはデジタルの良さがあると互いを認めつつ、歳をとって堅くなりつつある己の物の捉え方を柔軟に生きていきたい。


追伸:むしろここからが本題である。ボボボーボ・ボーボボ。約24年前に週刊少年ジャンプにて読切が掲載され以降4年間(第二部『真説ボボボーボ・ボーボボ』を併せると6年)にわたって連載された怪作である。当時中学生だった俺は毎日親から50円ずつ貰えるお小遣いを貯めて少年ジャンプに注ぎ込んでいたホソカワ君から読み終わったそれを読ませてもらっていた。ボーボボは掲載時から話題を呼んだ。あるようでないようなでもあるストーリーに対して小ネタの応酬による相次ぐ脱線。見た目の良さとは彼岸にある主人公なのかもよく分からないボーボボという人物。ハゲの支配体制に鼻毛で立ち向かう小学生が考えてきたみたいな漫画。それが生き残りの厳しいとされる天下の少年ジャンプ本誌で4年も連載された奇跡。要するにウケたのである。主題の破綻した不条理なギャグセンスはいつしか原義に近いかたちのファンに恵まれ『ボボボーボ・ボーボボ』こそが聖書だコーランだ、いやいや人生だなどと宣う連中が何人もいる。俺もその一人だ。澤井啓夫先生が生み出した鼻毛が自由自在のアフログラサンにはどこかの一子相伝の奥義継承者にして世紀末覇者に似た頼もしさがあり、それがどういうわけだか俺たちみたいな狂える羊を救ってきた。今の俺はボーボボ全巻と共にある。無敵だ。こんなにも社会が明るく見えた日があっただろうか。それもこれもホソカワ君の親御さんが毎日50円のお小遣いを与えてくれたからだ。ホソカワ君、お元気ですか。50円、俺からも払わさせてください。

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