静かに暮らしたい

川谷パルテノン

4月9日

 肩凝りがひどい。若い頃は分からなかった。「肩が凝るてなんですの」と極妻の岩下志麻が拳銃を突きつけて云う。それくらい(どれくらい)分からなかった。でも今は分かる。これが凝りかとひしひし感じる。肩凝りがひどいと頭痛もひどい。でもどうしたらいいかがわからない。マッサージとかしてもらったらいいのだろうか。

 大学の頃、「てもみん」に行こうか迷ったことがある。迷ってますと先輩に打ち明けたら「風俗ちゃうで」と教えてもらった。別にエロいのを期待していたわけじゃないですと返した。今もそうだ。切実な問題として肩凝りがある。職場の後輩に「繊維ちぎれるまで揉みしだいてくれん?」とお願いしそうになる。でも自分はまだ人だという僅かな自覚から踏みとどまれている。上司から「肩揉みしだいてくれ」などと頼まれた日には将来の不安を覚える。そうはなってほしくない。マッサージというか整体みたいなとこに行ったほうがいいんだろうか。また大学の頃のことを思い出してしまう。海へ行こうと約束していた。その三日前くらいに住んでたアパートのシャワーがぶっ壊れて熱湯が噴き出た。慌てて躱したが足の甲の皮膚が持ってかれた。キンキンのあずきバーに唇の皮が持ってかれるのとはワケが違う。めちゃくちゃ痛い。バイト終わりの深夜だったが友達に氷を買って来てもらい痛みと眠気の狭間で一徹した。何より辛いのは海に入れないことだった。せっかく楽しみにしていたキャンパスライフの延長としての海水浴。浜辺でずっと楽しそうにはしゃぐみんなを見ていた。悲しくて砂を深めに掘った。

 海からあがった面々は海水のベタつきを落とそうってことで近くの銭湯に向かった。生憎湯船に浸かることも出来ない俺だ。悲しくてロビーにあったマッサージ機を占拠した。10分で100円。800円使った。そこに置いてあった『金田一少年の事件簿』もほとんど読んだ。風呂長いて。

 考えてもみればあの日揉みすぎたのかもしれない。今その揉み返しが来ているのかもしれない。人生は流転だ。週末は海でも行くか。

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