第17話 本戦第四回戦
「これより!!本戦四回戦!!フェルディナ選手対ゴディーダ選手の試合を開始いたします!!」
審判が大声で観客に呼び掛ける。
会場では細剣を鞘に入れたままで居合いの構えをとっているフェルディナ選手と、自分より大きい両手斧を地面と平行にして体を少し捻った体制で持っている身長180cm程の男が向かい合って合図を待っている。
武器だけで分かりやすい、スピードタイプ対パワータイプの試合だ。
審判が手を上げる。
二人は睨みあったままピクリとも動かない。
「始め!!」
審判が手を振り下ろすと同時に二人は動いた。
フェルディナ選手は霞むほどの速度で相手に迫り居合い斬りを、ゴディーダ選手はそれを迎撃するようにその場で空気を裂くような横凪ぎを、それぞれに向けて放つ。
観客達にはゴディーダ選手の刃がフェルディナ選手をとらえたように見えた。
フェルディナ選手はゴディーダ選手の横を通り過ぎ、五メートル程離れたところで止まる。細剣は鞘に入っている状態だ。彼女からポタポタと赤い血が垂れ落ちている。
ゴディーダ選手は両手斧を横に振り切った体制でその場に留まっている。
二人は互いに背を向けたまま動かない。
『・・・』
静寂が会場を包み、
フェルディナ選手が構えを解いた。
それを合図にしたかのようにゴディーダ選手は前のめりに倒れる。その横腹には大きな切り傷が。
「勝者!!フェルディナ選手!!」
ワァァァァァ!!!!と観客から大きな歓声が上がる。
(ひゃ~、速いねぇ~。男の人も結構強いのに、タイミングも彼女が
先程の交錯、ミカには見えていた。
フェルディナ選手はゴディーダ選手が両手斧を振り始めた瞬間、最後から二歩目の際、ほんの一瞬だけブレーキをかけた。だが、ゴディーダ選手もこれには反応できていた。対応して動いていた。
次が問題だ。
彼女はブレーキをかけたことによって下がった速度を次のたった一歩で
この高速の緩急によって生まれた残像をゴディーダ選手は切り裂いたのだ。
フェルディナ選手も無傷とはいかなかった。彼女の腕からは大量というほどではないが血が垂れている。
ゴディーダ選手も見えてはいたのだろう。だが、体がついていかず、刃の加速が間に合わなかったようだ。それでも彼女に傷を与えるほどの速度を瞬時に出したのは充分凄いことだが。
と、ミカがそんな考察をしている間に彼女がミカ達の目の前にある階段から降りてくる。
彼女はこの待機場所にいるメンバーを一人一人見て、視線がミカで止まる。
「ほう?貴方も残ったのですか。・・・改めて向き合ってみても、やはり、覇気を感じませんが、少し評価を改めておきます」
彼女はミカが本当に残っていることに驚いている。が、それでもまだ運が良かっただけだと思っているのかミカのことを下に見ている。
「はぁ・・・。覇気、ですか。まぁ、そんなものは持ってませんね、確かに」
ミカはとりあえず曖昧に頷いておく。彼女に見下されているのは分かっているが、どちらが上かは試合で確認すれば良いだけだ。
リリィはニコニコとしている。彼女の言葉をそのまま、いい意味だけ受け取っているようだ。やはり、彼女の方が人を見る目が無いのではないだろうか。少なくともミカはそう思った。
「初めまして、レディ。私はルドゥマナ・バクセン。次の準決勝で争うものです。お見知りおきを」
フェルディナ選手がダナル選手の方へと向き直ったタイミングでルドゥマナが仰々しく一礼をして自己紹介をする。
ミカは思う。
(僕と態度違いますね?)
そう思うのも無理無いだろう。もはや、誰だこいつ?レベルだ。
「ご丁寧に、ルドゥマナ殿。私はフェルディナ・トゥ・ラライナ。次の試合、より良くするため互いに力を尽くしましょう」
彼女はミカには見せたことの無い笑顔を見せて応える。背後にはダナル選手が護衛のように立っている。
(貴方もですか。何?この茶番)
ミカはため息を吐いて、その場からそっと離れる。自分が邪魔者のような気がしたからだ。どうでもいいが、ボッチの思考である。
そんなやり取りをしている間に審判の男性が降りてきた。彼は中の状態を見て、というか、隅で小さくなっているミカを見て小さく笑う。
(ちょっとどういう意味ですか?)
ミカにこの場で問いかける勇気はなかった。
「準決勝は会場が整い次第始めます。ダナル選手とミカ選手は準備をしてください。こちらから合図をしますので準備ができたら会場が見えるこの場にいてください。また、他の選手や特別観戦席をご利用していた方はその特別観戦席で見ることができますので利用したい方は私から見て左にある扉から行くことができます。案内の者が待機していますので彼女達の指示に従ってください」
男性は必要なことだけ言って会場へと戻っていった。
フェルディナ選手はダナル選手を激励するかのようにポンと叩いて離れていく。それにたいしてダナル選手は獰猛な笑みを返している。
仲間に返す視線とは思えないが彼流なのだろうか?
そんなことを思いながらミカは会場が見える場所に移動する。準備などは何もない。持っている剣だけだ。
ダナル選手は何か準備があるのか、両手剣を立て掛けて腰のポーチをガサゴソとあさり、何かを取り出す。
出てきたのは黒光りしている抜き身の両手剣で―――
「はぁぁぁぁぁ!?」
「ひゃぅ!?」
ミカは驚いて大声を出してしまう。その声に驚いてフェルディナ選手が意外と可愛い悲鳴を上げる。隣にいたリリィは驚き過ぎて声も出せずに硬直している。
「・・・何だ」
「いきなり、なんですか?」
ダナル選手とルドゥマナ選手が不機嫌そうにミカを睨む。
「あ、その、失礼しました」
(うん、落ち着こう。魔法で四次元ポケット的なものが有るんだから、アイテムボックスが有っても不思議じゃないから。異世界でアイテムボックスが有るのは当たり前でしょ。この世界はファンタジーこの世界はファンタジーこの世界はファンタジー・・・よし)
ミカはすぐ謝り、彼らから少し距離をとる。見た目は落ち着いているように見えるが、内心では自分を落ち着かせるために自己暗示擬きを行うほど冷静さを欠いていた。
だが、そんな自己暗示擬きでも効果が効あったのか、ミカは落ち着いてダナル選手を見ることができた。
準決勝で武器を量産されているようなものでなく、業物のような両手剣に変えて重さを確かめるようにしているダナル選手を。
「・・・ぇ?」
(あれ?殺す気満々に見えるのは気のせいかな?)
ここでミカは思い出してしまった。彼がトラックから降りたときの視線を。その時の視線は―――人殺しの目に見えたことを。
(・・・うわー、これ、本気かもな~)
が、その視線を思い出したにも関わらず、ミカは取り乱したり等はしなかった。それどころか、心の声もどこか平坦で―――
「それでは皆さん!!これより準決勝を開始いたします。選手の入場です!」
その様はまるで、自分の死がどうでもいいことだと言っているようにも見えた。
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