二章 武闘大会

第8話 ある日の夢

『竜兄、これ』


『ドアが壊れてる?』


 ランドセルを背負った幼い少年二人は顔を見合わせる。片方は少し目付きの悪い少年で、もう片方は男装している女の子にしか見えない少年だ。目の前には家の外側に倒れている引き戸。彼らは音をたてないようにそっと家に入っていく。


(夢、か)


 そんな幼い二人を後ろからミカが眺めている。その表情は暗い。

 場面が切り替わり、二人を追いかけてもいないのに、また、彼らの背後に立っている。


『出てこい!! 三神!!』


 少年達の視線の先には包丁を持った男が目を血走らせ、誰かを探している。


『あれって・・・』


『何? 竜兄の知り合い? 友達は選べよ』


『いや、違うから。確か、この間パパが、別の道場で叩きのめしてた、・・・もんだいじん?とか言う人だ』


『もんだいじん? 変な名前』


『試合で何もできなかった人で、終わった後パパが何かを言って、パパをすごく睨んでた』


(何でこのとき、のんきに会話をしてたんだろ?)


 ガタッ!! という音がしてとっさに少年二人は口を押さえる。音がなったのは彼らの場所でも、男がいる部屋でもない。そのとなり、襖の向こう側からだ。

 この日、彼らの母親は仕事で帰りが遅く、父親は趣味用の靴がなかったため、道場破りに出掛けたのだろうと二人は予想し、その予想は合っていた。いつもより、帰りが遅かったのは今回の相手が強く、楽しんでいたからだ。そして少年二人は友達の家で遊んでいた。

 家にずっと居たのは、


『『比佐津ひさつ...!!』』


 彼らの妹だ。男は音のなった方へ歩き出す。


『ヤバイ、どうする?』


『ヘビ、紐持ってる?』


『こんなのしかないぞ』


 目付きの悪い少年が取り出したのは細い蛸糸。


『勘違いしてくれるようなバカだといいんだけど。ヘビは一応家の刀持ってきて』


『竜兄は?』


『足止め。二人で追い払うよ』


(このときは、調子に乗ってたよね僕達・・・)


 ミカは何をするでもなくただ立って見ていた。

 その間に少年達は別行動を開始する。目付きの悪い少年が道場へと行き、女の子のような少年がランドセルに紐を着けている。紐着け作業はすぐに終わり、少年は男をじっと見つめている。


 男が襖の前にあるゲーム機を蹴った瞬間、女の子のような少年はランドセルを投げつける。


『ガッ!?』


 ランドセルは男の足下に当たり、女の子のような少年はわざと足音をたてながら逃げる。


『うわっ!! バカだ!! 罠に引っ掛かった!!』


 同時に声もあげる。それを聞いた男は足下のランドセルに紐がついているのを見て、苛立たしげに蹴り飛ばす。


『ガキが!!』


 男は物音が罠だと勘違いして、少年のいた方へ走り出す。

 うわっ、本当にバカだ、と思いながら少年は廊下にある部屋にすぐに入る。このとき彼は大人の脚力を完全になめていた。部屋に入る際を見られていた。

 少年はまだ、見つかっていないと思い、音をたてずに部屋にひそむ。


『これで時間を稼いで・・・』


『で? どうすんだ?』


 襖が開く。少年は驚いて固まっている。男はそんな少年を部屋の隅まで蹴り飛ばす。


『ウグッ!? ・・・ぅあっ』


 少年は痛みでうずくまっている。そんな少年に男は近づき、首を掴んで持ち上げる。男は一瞬怪訝そうな顔をして、思い出したかのように深くうなずいた。


『お前、あいつのガキか? そういやぁ、あのときも居やがったなぁ。・・・良いこと思いついた』


 男はニヤァと嫌悪感の沸くような笑顔で少年を見ている。


『てめえをボコればあいつが出てくるんだろ? ガキのピンチは親が救うもんだもんなぁ!!』


 少年が今度は入り口の方へと投げられる。少年は肩で息をし、咳き込みながらも何とか立ち上がり男を睨む。


『あ? なんだよその目は? ・・・殺すぞ?』


 少年は尚、男をにらみ続ける。

 男は苛立たしげに舌打ちをして、


『じゃあ、死ね』


 包丁を振り上げ、少年に向かって降り下ろす直前。


めてーーーーー!!』


 間に少女が割り込んで来た。瞬間この世界の時間が遅くなる。

 ミカは周りを見回す。この部屋は二つ続きの部屋で、道場との道へは隣の部屋の窓からが一番の近道だ。だからだろう、そこには目付きの悪い少年が焦った表情で飛び出してきている。

 女の子のような少年は、何が起きているか分からない、といった表情をしている。

 男は驚いた表情をしているが、ミカは知っている。この刃が止まることはないと。


 そして―――


 少女が斬られ、血が吹き出る。今見れば分かる。この傷は致命傷ではないと。現にこの後、少女は助かっている。が、当時は気づかなかった。


 少年二人から表情が消える。そして、





 場面が跳び、目付きの悪い少年は自分の血塗れの手を見て震えながらも少女の方へと歩いていく。その足取りはひどく緩慢だ。


 対して、女の子のような少年は自分の血塗れの手と頭に包丁の刺さった男の死体を交互に見て、















 笑っていた。














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