第3話 守り人

 人間達とコクロウの戦闘は一方的だった。


「ギャァァァァ!!」


「く、くるな!ぐぁぁ!」


「くそっ!陣形を崩すな!よく見ろ!!攻撃はあたる!」


 コクロウはいっさい止まらずに人間達を蹂躙し続ける。


 人間達はコクロウの動きが見えない。彼らには黒い影しか目で追えない。


 リーダーはかろうじて見えており何とか反撃をするが容易く避けられる。


 先読みして何とか一撃を与え隊を叱咤するが、その攻撃はコクロウの黒い鱗に傷1つつけることもできていない。


 ヒスラ族の鱗は性格、戦闘スタイルや鍛え方によって色が変わる。攻撃的な赤、硬い青、リーダー代理の様に隠れることが得意なものは緑色、が多い。もちろん例外はあるので緑が戦闘で必ずしも弱いとは限らない。


 では、黒はどうかと言うと、これらの例に当てはまらない。


 黒はヒスラ族の上位存在のようなものの1つで、普通のヒスラ族では相手にならない程全体的な能力が高い。


 コクロウは黒鱗を持っているなかでは弱い部類に入るが、それでも、ただの鉄の剣ではよほど優れた技量を持っていない限り傷つける事はできない。


 とうとう人間はリーダーの男ただ一人になっていた。


「くそっ!化物ばけもんが!」


 男もすでに満身創痍、利き腕は剣と共に落ちている。


 コクロウはそんな男に近づき、


「グッ!ガァァァァ!!」


 ブチブチ!と、無言で首を引きちぎる。


 コクロウは生首を適当に捨て、リリィへと手を差し出す。


「・・・よい、一人で立てる」


 顔色は悪く、明らかに無理をしているが、コクロウは静かに立っているだけ。


 1分程した頃、ようやくコクロウは口を開いて、


「姫様。これ以上はさすがに危険です。そろそろ」


「・・・うむ。もう、大丈夫だ」


 そう言ってリリィは立ち上がるが、顔色はまだ悪い。


 それを見てコクロウは


「失礼いたします」


 と、リリィの背中と膝の裏側を片腕で器用に持ち抱き上げる。


「・・・何をする」


 口調は不機嫌そうだが、顔色は少し良くなり、少し笑っている。


 コクロウは何も言わず、魔都を目指して歩きだす。











「もう歩ける」


 それなりの距離を歩き、それまで黙って抱えられていたリリィが言った。リリィの顔色は良くなっており、それを見たコクロウは彼女を降ろそうとし、


「また会ったな」


「!!」


 真後ろから声。


 コクロウはとっさに、リリィを前方へ投げる。直後、


 背後から、リリィを抱いていた腕を切り落とされる。


 周りは平原、隠れることができる場所はない。なのに、完全な不意打ち。


「グッ!バカな、何処に隠れていた?」


「秘匿系のマジックアイテムだ。お前達は俺達の真横を通ってたんだぜ?」


 まぁ、あと2、3回しか使えないけどな。と、片手剣の男が笑いながら言う。その手には小さい石を持っている。光っていなければただの石にしか見えない。


「『また』とは、どういう意味だ?」


「あぁ、そっちのインプにだよ。なぁ?魔族の姫さん」


 リリィは森で彼らと会っているのを忘れていた。思い出しても短い時間しか見ていなかった上、簡単に通ることができていたので大したことはない者達だと思っていた。


 しかし、彼は、コクロウの、黒鱗を持っているコクロウの腕を切り落とした。


 見た目や性格とは違い、かなりの腕を持っている。


 同じ判断をしたコクロウは片手剣の男に近づき、


「コクロウ!!」


 リリィの警告より早く、右へと飛ぶ。<PBR>


 彼がいた場所に炎の槍が刺さる。


 炎はすぐに消え、刺さっていた点以外は一切燃え広がっていない。


「へたくそ」


「ちょ!リーダーが俺達・・とか言うから警戒されてたんだよ!」


「あぁ!?なんだ?俺のせいだと?」


「こっちに気づかれないように挑発するとか言ってたくせに、へたくそ」


 何もなかった片手剣の男の右後ろからローブの青年が現れる。


 彼の持っていた石は、だんだんと光を失い、その場で砕けたが、それに気づいていない様子で、


「いいぜ、決闘だ!叩きのめしてやる!」


「はっ!やってみなよ、灰にしてやる!」


 と、喧嘩を続けている。


 リリィはそれを見て、もう一人が居ないことに気付き、コクロウに警告をしようと―――


「ガハッ!?」


「はぁ~。何をしている、あのままだとこいつに殺され・・・はせんだろうが傷は負っていたぞ?」


 コクロウの背後から音もなく現れた鎧の男が、そのままコクロウの背中に刃を立てる。刃は背中から心臓を通り左胸から飛び出していた。誰が見ても致命傷だ。


「コクロウ!!」


 刃を抜かれ、倒れたコクロウにリリィは近づき血を止めようと必死に傷を押さえる。


「ほれ、仕事しろ。リーダー」


「おい!俺がダメ人間見たいに言うな!」


 あれ?リーダーだよな、俺?と言いながら、片手剣の男はコクロウとリリィに近づき、剣を振り上げ、


「じゃあな、恨むなら、自分の生まれを恨め」


 コクロウはよくリリィの面倒を見ていた。リリィにとって彼は、第2の父親のようなものだった。諜報部隊のメンバーも彼と一緒によくしてくれていた。友達になった者もいた。


(これからも皆が傷付くのを見るくらいなら・・・)


 そう思ったリリィはもう助からないとわかっていながらも、コクロウを庇おうと前に出て相手を睨む。


 視界にいたのは知らない女のような青年だった。


「え?」


「は?」


 片手剣の男も突然現れた青年に驚き、開いた口がふさがらないといった感じだ。しかし、下ろされている剣は止まらない。


「ほえ?」


  間抜けな声をあげた青年は何がおきたかわからないといった表情をして、


「――――っ!?」


 剣の横腹に掌底を叩き込み剣をそらす。


 片手剣の男は、すぐに距離をとる。


 突然現れた青年はリリィ、三人組の順に見て、周りを見回したあと、リリィに背を向け、


「え~っと、あまり気分が悪くなるようなもの、見せないでもらえますか?」


 気の抜けるような声で三人組に言った。


 リリィにはその背中がなぜだかとても大きく見えた。

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