第39話 違う意味で姫ポジの辛さを理解する

 十数分程度でようやく催眠が切れた。鞄の中にあるスマホを見る。丁度十七時になったところだった。天霧君から電話が来ていた。それに応じる。


「えーっと。井上です」

「お姉さん! 聞こえるかな?」

「うん」


 天霧君とのおしゃべりは、きっといい暇つぶしにはなるだろう。高い利用料金を払うことになるが、仕方のないことだ。


「なら色々と教えるね」


 情報を獲得できる。それは有難いことだ。恐らく富脇君とやり取りを何度も繰り返したのだろう。


「お姉さんがいる建物はマフィアのルージュ・ヴァンピールが持つ奴なんだ。この島の本拠地と言ったところかな。どうにか探し出した警察が殴り込みに行っているよ。どこの大学の研究員かは……分からないけど、最強カードを出すらしいから相当ガチだよ」

「なんで大学にそういうのいるわけ!?」


 私の突っ込みに天霧君は冷静に答える。


「多分異能絡みの研究をやってるからだろうね」

「なるほどね」

「ところでお姉さんがいる部屋ってどんな感じなの」


 言われてみれば、周りを軽く見た程度だ。壁とベッドぐらいしかまともに見ていない。


「ちょっと待って」


 窓がある。茶色のカーテンを開けて、外向きにガラス窓を開ける。まだ沈み切っていない。今度は下を見る。このまま飛び降りたら即死するぐらいの高さはある。五階以上確定だ。


「窓があって、数階のある部屋にいるって感じ。普通の人なら飛び降りたら死ぬだろうし、監獄に近いだろうね。とりあえず脱出しちゃってもいいかな?」


 まだ明るい。こちらもある程度動けるようになっている。異能を使える余力を持っている。それなら早く危険なところから逃げた方がいい。私個人の意見なので、周辺状況次第で変わってしまうと思うが。


「それは悪手だと思うよ」


 天霧君から止められた。何故かぐらいは理解できる。


「状況としてよくないってことか。ああ。そっか。警察がいるから、抗争になって巻き込まれる可能性が十分にあるって感じか」


 そう言いながら、私はスマホを左手で持ち、右手で窓を閉じる。天霧君からよろしくない予想を聞いてしまう。


「それもあるけど、異能持ちの女性を大事にしてるからね。それに下手したら、今度こそあの手この手で、洗脳状態になっちゃうよ」

「げぇ」


 それはすごく嫌だ。


「だからしばらく大人しくした方が」


 不自然なタイミングで天霧君からの電話が切れた。割り込んでいるように思える。


「やあ。お嬢さん」


 あのアルビノの男の甘ったるい声だ。反射的にスマホをベッドに投げ捨てる。


「君にお願いしたいことがあるんだ」


 奴の催眠の条件が未だに分かっていない。スマホに結界を貼っておいて、声を聞こえないようにする。再び暇になってくる。ごろりとベッドで寝転がる。


「何も動けないとか……姫ポジションじゃないんだから」


 攫われる姫は物語でよくいる。王子様に助けられることが多いが、ここまで暇だとは思ってもみなかった。


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