第28話 結界系異能力者交流会 ②
広い庭を通り、建物の中に入る。見た目は日本の昔の建物だが、中はきちんと現代の生活様式になっている。靴を脱ぎ、畳の部屋に入る。既に一人がいた。ほぼ毎年参加している。八十ぐらいのおばあちゃん。ピンク色のカーディガンが羽織って、正座で静かに本を読んでいた。
「梅子さん、お久しぶりです」
舞原さんは正座になって、梅子さんというおばあちゃんに話しかけた。既に耳が遠くなっているため、ゆっくりめで大きい声だ。
「あらまあ。作家先生じゃない。前よりもイケメンねぇ」
因みに梅子さんは舞原さんのことを作家先生と呼んでいる。若くてイケメンな子はいい刺激になるという理由で、好んではいる。ただし、永遠に孫扱いである。
「ありがとうございます。紹介します。初めて参加した子ですので。ほら。大樹君」
「え」
急に匙を投げられたからか、大樹君は身を固くする。
「名乗っておけばいいの?」
「梅子さんは耳遠いから、大きく声を出すんだよ」
大樹君は舞原さんのその言葉にかみつく。
「んなの分かってるし」
大樹君はリュックサックを下ろす。しゃがんで、おばあちゃんを見る。
「俺、渡辺大樹。よろしく。えーっと」
「日比谷梅子よ。可愛い子が増えたわねぇ」
うふふと笑う梅子さんは実に嬉しそうだ。そう言えばと私はリト兄さんに聞く。
「他の人も来たりしますか?」
「いや。今回はこのメンツやな」
思ったよりも少なかった。交流会は無理強いするものではない。受験期や仕事などと重なったことで参加出来ない人もいる。そのため、たまに五人以下になることもある。こういう時は大体まったりとやることが多い。経験者から聞いただけで、今回どうなるかは不明である。
「せやから。のんびりと遊ぼうと思ってな」
リト兄さんの両手にピコピコハンマーがある。どこにのんびり要素がある。スピードが求められる典型的なゲームではないか。
「反射的に結界を貼る良い訓練になるやろ。小学生の大樹君はまだ発現したてやし」
何かが引っ掛かったのか、大樹君はムッとした表情を見せた。可愛い。
「というわけで、お兄さんらで手本を見せよか」
リト兄さんはピコピコハンマーを舞原さんに投げて渡そうとする。舞原さんはあわあわとしながらも、どうにか受け取る。
「それじゃ。じゃんけん」
「ぽん」
大の大人が胡坐をかいて、真剣にじゃんけんをする。実にシュールな絵面だ。何度もあいこを繰り返し、ようやく勝ち負けが決まる。
「ぽん!」
舞原さんが勝ち、リト兄さんが負けた。舞原さんが叩くと同時に、リト兄さんは結界を貼った。やられると分かった途端に一秒足らずでやった。相変わらずの神業だ。安定性があって、綺麗に出来上がっている。私でもそう簡単に出来る代物ではない。
「みんなはこんなの出来るの!?」
大樹君が驚いていた。みんな出来るわけではない。同じ結界という異能力の使い手でも、注視してみると、得意としているところはバラバラだ。リト兄さんは例外だ。あの人は全部が高水準で参考にならない。
「人によるかな」
そう言ってみたら、梅子さんは微笑みながらこう言う。
「そうねぇ。歳を取って、遅くなったなぁと思うわ」
八十ぐらいになると異能の発動が遅くなる。それが梅子さんの台詞だ。高齢者で異能力者という梅子さんの存在は貴重だ。リト兄さんが大事にする理由もそこから来ている。
「私と違って、速くなるわよ。きっと」
精神的に励まされたということもあり、大樹君のやる気は十分だ。息がめちゃくちゃ荒い。
「おっと。やる気が出とるみたいやなぁ。ほれ」
リト兄さんはピコピコハンマーを大樹君に渡す。渡された彼は対戦相手の舞原さんを見る。睨みつけている。
「うえ!? お。お手柔らかにぃ」
その睨みに舞原さんは弱気な態度になっている。
「ガチでやってよ。俺は強くなりたいんだからね!」
少年漫画の主人公のようなセリフに、舞原さんは器用に後退りをする。
「なんでここまで張り切ってるわけ!?」
やる気スイッチは人によって異なるのだよ。心の中で言った後、私は大樹君の特訓を見たり、付き合ったりした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます