第29話 結界系異能力者交流会 ③
ピコピコハンマーを使った訓練。結界を形作る遊び。色々なことをやっていたら、夕方になっていた。冷たいそうめんと出来立ての天ぷらをいただき、湯船に浸かり、就寝……するには早かったので、おしゃべりタイムだ。
「ねえ。こがにいちゃんは作家なの?」
大樹君はそう言いながら、ごろごろとゲームをしている。世界的に有名なモンスターを狩るゲームをやっており、大剣を振り回している男の操作主が大樹君だろう。
「うん」
「読書感想文の本、いいのない?」
小学生の夏休みの面倒な宿題の筆頭が来た。悩んだ記憶しかない。最近は代理がやるという話もあるようだが、この子の場合はきちんとひとりでやるみたいだ。偉い。
「面倒なら指定図書があるけど?」
選ぶことが苦手な人ならそれでいいだろう。
「それ読んだけどつまらない!」
ただし、大樹君には合っていなかった。
「……短くて面白いのない?」
無茶な要求だ。舞原先生は答えられるのだろうか。
「愉快な音楽隊の旅路とか、白銀の竜騎士とか、世界樹マンションとかかな」
舞原さんの口から題名が出てきた。流石だ。
「図書館にもあるの。それ」
「あるよ。愉快な音楽隊の旅路と白銀の騎士は子供文庫のコーナーに置いてるはずだよ。世界樹マンションはライトノベルだから、別のとこになっちゃうけど」
世界樹マンションは十年以上も続いているライトノベルだ。様々な時代や住人のエピソードがつづられ、ひとつひとつが短く読みやすいと評判だ。時々長い話もあり、その辺りは別ベクトルで良いという話だ。
「帰ったら調べよう。ありがとう」
知らない間にスマホでメモをしていた。きちんとした子だった。お礼を言われた舞原さんは少し照れ顔になる。
「どうもいたしまして。夏休みの宿題の中でも重い奴だもん。これぐらいのアドバイスは大人としてね。それに作家として本を嫌いになって欲しくないし」
本当に良い作家だ。私は拍手をする。
「あわわ。照れるなぁ」
舞原さんのはにかむところが可愛い。いや。直接言ったら、本人は普通に落ち込むので、言わないが。
「そう言えばさぁ。こがにいちゃんって、ひかりねえちゃんのこと好きだったりするの?」
ド直球に言った。舞原さんの頬が一気に赤くなる。漫画や映像だと湯気が出てもおかしくなさそうだ。このまま放置するという手もあるが、流石に可哀そうなのでこちらからもフォローを入れておく。
「舞原さんの場合、色々な国に行って、距離感がバグってるんだよね。元々甘えん坊気質があるから余計に」
私以外に抱き着いている女性は割といる。前回参加した時は二つ上の女性の横舘さんにべったりだった。様々な国を渡り歩いた結果、更に悪化している。
「大人なのに?」
大樹君が疑うような声を出した。無理もない。かつての私もそうだった。子供の時は大人という者はきちんとしている。そう思っていたが、周りの人を見ていると、そうでもなかったりする。仕事として参加しているわけではないから余計に。
「まあ仕事でここにいるわけじゃないからね。舞原さんだって、編集者と話す時はああいうことやってないよ。多分だけど」
「ふーん」
大樹君はじーっと舞原さんを見る。気付いた舞原さんはにこにことした顔で手を振った。
「ひかり姉ちゃんはこがにいちゃんのことどう思ってるわけ」
今度は私を見ている。色々思うところがあるのだろう。
「優しい人だと思うよ。普段はああいう感じだけど、やる時はやる人だから」
「それが大人って奴?」
静かにしていた梅子さんが楽しそうに言う。
「そりゃそうよ。ずっと気を張ってたら疲れるもの」
私はそれに頷く。
「大人になったら酒というもので癒す者もおるでぇ」
襖からひょっこりと、何かが顔を出す。風呂から上がったばかりのリト兄さんだった。半分冗談で言ったものだと……思いたい。
「百害あって一利なしって聞いてるけどね。保健の先生が言ってた」
小学生らしい大樹君の発言にリト兄さんはどう言うのだろうか。私も、梅子さんも、舞原さんも、リト兄さんに注目する。
「少しなら、メリットもあるんやで。コミュニケーションのきっかけにもなるし、リラックスできる。まあ……先生の言う通り、取り過ぎは良くないんやけどな。もしよかったら、僕がレクチャーしてあげよか?」
リト兄さんは自分の推しのお酒を勧める気だ。
「いい。どうせ自分好みのを押し付ける気でしょ」
普通にバレていた。リト兄さんはぶふっと吹き出す。
「あっは。バレとった。いやー本当に将来が楽しみやなぁ」
そう言って、どこかの部屋に行ってしまった。さてと。私はスマホで時刻を見る。午後九時半。思ったよりもお喋りをしていたみたいだ。子供の寝る時間だ。
「そろそろ布団を敷きましょう」
梅子さんの両手で叩く音で、私達は布団を敷き始め、準備をして、就寝した。そして朝六時に起床し、のんびりと朝ご飯を食べる。その後は解散だ。梅子さんは友人の別荘に顔出しをし、大樹君は家族と合流してキャンプするらしいので、帰宅する人は私と舞原さんだ。共に新幹線に乗り、東京駅で降りる。
「舞原さん、体調崩さないようにしてくださいよ」
「ひかりちゃんもね。あとはー……夜の街、気を付けてね」
舞原さんは凄く心配そうに私を見つめている。無理もない。来週から短期留学するところのブラックユニバーシティタウンは夜の治安がよろしくない。
「また会おうね」
「はい!」
手を振って別れて、交流会が終わった。短期留学。私にとって初めての海外滞在だ。気を引き締めて、きちんとやろう。
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