第27話 結界系異能力者交流会 ①

 夏のコミケから数日後。私はリト兄さんの屋敷に向かった。長野の軽井沢。避暑地ということもあり、別荘がたくさんあるし、観光スポットもある。今回は遊びに来たわけではない。年に一度の、結界の異能力者の交流会があるから、ここに来ている。因みに去年は受験があったため、不参加だったので、一年振りの参加だったりする。


「あっつぅ」


 避暑地の癖に暑い。汗が出ている。かきながら、日本屋敷の正門のインターホンを押す。セミが五月蠅すぎて、聞こえているかどうかが不明だ。


「ひかりちゃん」


 男の声が聞こえたと同時に、後ろから抱き着かれた。甘えられているが、やっている張本人は四つも上だ。


「お久しぶりです。舞原さん」


 黄色がかった薄茶色の髪を結んでいる、眼鏡をかけた儚い系美人の男。舞原高雅さんだ。彼は作家として活動をしているらしい。大学卒業してから、今まで以上に執筆作業をしているはずだ。そのストレスで思わず抱き着いたと思いたい。今日の恰好は大正の書生を思わせるような和服だ。和柄のカバーをしたスーツケースを使用している。相変わらず浮いている人である。


「卒業おめでとうございます」


 今年の春に卒業したばかりなので、形としてお祝いの言葉を言っておいた。


「大学入学おめでとー。調子はどう?」

「どうにかやれてますよ」


 そう言った後に視線を感じ取ったので、そちらの方を向く。麦わら帽子を被る、Tシャツの男子小学生。身長から高学年だろう。


「お兄さん、お姉ちゃんと付き合ってんの?」


 その純粋な言葉に舞原さんの顔が赤くなっていく。


「うえ!? つ……付きあ。うわ。ひかりちゃん、ごめん!」


 どうやら舞原さんは無意識に抱き着いていたようだ。気付いて、すぐに離していた。暫くは声をかけても反応しないだろう。そういうことで、小学生に声をかける。


「君は」

「渡辺大樹。俺も交流会とやらでこっちに来たんだよ。知らないから捨てようかと思ったけど」


 容赦のない小学生だ。


「母さんが噂の安倍リトって人のファンだから、サイン貰って来いとかでこうなった」


 ざっくり過ぎる。そして母さんは面食いの匂いしかしない。


「途中までは送ってくれたけど、軽井沢からはよく分からないから迷子になってた時に、変な兄さんに助けてもらった」


 渡辺大樹君は基本的に容赦がない。年上だろうと。助けてもらった人だろうと。


「ここでずっと立ち話しとるのもあれやし、入ったらどうや」


 黒に近い藍色の髪を結っている、黒色の目を持つリト兄さんが正門の扉を開けた。いや。前から開けていたのかもしれないが、私達が気付いていなかっただけだろう。


「……」


 大樹君がじっとリト兄さんを見る。紺色の男性用の着物で涼しそうな印象だ。落ち着きがある。顔立ちが良いので、声をかけられてもおかしくない。ここでようやく、大樹君の口が開く。


「本当にいたんだ」


 呟くように言った。リト兄さんが遠い世界にいると感じていたのだろう。俳優並みに顔が良くて、京都府警察に所属していることが理由だ。


「あっは。俺は存在しとるよ? 安倍リトと言います。よろしゅうな。渡辺大樹君」

「お世話になります。えーっと。確か」


 大樹君は背負っていたリュックサックを下ろし、何かを探し始めた。


「これ母さんから差し入れ」


 博多の名前が付いたお土産の菓子箱。九州の子のようだ。


「おおきに。さあ。中に入り」


 交流会が始まる。どういう人が参加しているかは当日じゃないと分からない。とは言え、大体の人は気性が穏やかだ。恐らく大丈夫だと思いたい。

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