第24話 デスゲームで恋をした女子高生のお話

 私は宮野美樹。運悪く、悪い奴らの違法薬物の取引を見てしまい、デスゲームに参加してしまった哀れな女子高生だ。悪いことなんてしていない。友達と喋って。部活で青春をして。バイトをして。よくある女子高生の形。多分。


 私は人生初めての恋をした。黒髪の可愛らしい、恐らく近い歳の男。沼津と名乗っていた。

下手な選択をしたら、死んでもおかしくないという状況下で明るく振る舞っていた。どれだけ勇気を貰ったか。それだけではない。導いてくれた。君がいたからこそ、私はここにいる。生還できた。


 私達を守るために、いや、観察したいからこそ、ワザと負けて、罰を受けることになった時、本当に心の奥底から叫んでしまった。死というものを見たくないというのもあるが、沼津君が死ぬという現実を受け入れたくなかった。銃声を聞いて、もうだめだと思って、目を瞑る。けれど彼の声は聞こえていた。そっと開けると、沼津君は立っていた。手袋から銃弾が落ちていた。


「次はないと思え」


 ゲームマスターは今回だけ彼を許した。無事だと分かり、思わず沼津君に抱き着いてしまう。デスゲーム中であることに気付いたから、すぐに離したが……他の人に見られてしまって、恥ずかしかった。


 沼津君の行動で次のゲーム、最後になってしまったゲームに影響が出てしまった。参加者は沼津君だけ。大事だという人を殺せるかどうか。あまりにも残酷すぎるゲームだが、明るい態度で挑んでいた。拳銃という、引き金を引くだけで、人を殺せる恐ろしい武器にも普通に触って持っていた。何故あなたはそこまで強くいられるの。どこかが壊れているの。そう聞きたかった。でも聞けない。


「大事にしているみたいだが、情報を流しちゃだめだ。綺麗な子はいつだって目立つ。裏の世界となると、余計にねぇ」


 そう言った新たなゲームマスターのピエロのような男が開けた箱の中には女性が入っていた。茶色の髪が背中まであり、非常に艶やかで、普段からケアしていることが分かる。黒い布地に白色をベースにした明るい花の刺繍が施されている着物。健康的な桜色の頬。長い黒い睫毛。光が入らない黒い眼。見惚れるほど、綺麗な人がそこにいた。


 彼女を見た途端、敗北したと思った。何もかも。気品があるし、気高さが出ているし、普通の女子高生である私には持っていないものを彼女は持っていた。それでも彼が大事にしているもの。素直に撤退をして、見守るしかない。というかそれしか出来ない。沼津君は両手で拳銃を構える。ロックを外して、右手で右後ろの何処かを狙って撃った。銃声と壊れる音。剥き出しのコンクリートの床にレンズの欠片が落ちていた。


「沼津!」


 突然、落ち着きのあるカッコいい男の声が部屋に響いた。初めて聞いた声で誰もが戸惑う。沼津君を除いて。


「はい!」


 良い返事をして、沼津君はどこかに行ってしまった。ゲームマスターは沼津君を追いかけようとするが、綺麗な女性に掴まれて、地に伏せられてしまう。取り押さえに近い。


「奴らが撤退したのもこれが理由か。くそ!」


 ゲームマスターが吐いたように言った。上にいる女性は茶色の髪を外す。あれはウィッグだった。黒髪。変装をして潜り込んで反撃の機会を狙っていた。普通に女装をしていた。そのことを知ったのは、警察に保護されてから知った。警察が来て、軽く真相を知って、付き合っている人はいないかもと感じた私は沼津君に告白をしてみた。


 惨敗だった。どこか狂っているという沼津君は拒絶していた。何か言おうとしたが、時間切れで……ちょっとだけ沼津君を見て、車に乗り込んで終わってしまった。意外にも彼は頑固だと思う。明るいお調子者と勘違いする人だっているかも。けれど私には分かる。仮面だと言っているが、本当に優しい人なのだと。


 さようなら。私の初恋。ありがとう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る