第22話 予想外の展開へ
デスゲームは丁度第三回のゲームの説明が行われていた。いや。その前に謝罪があった。ゲームマスターの謝罪をよく聞く。
「こちら側の不手際で遅れてしまった。申し訳ない。そして急な事で申し訳ないが、運営側は我々ではなく、被り者がやることになった。それでは失礼する」
これは予想外だ。警視庁でも、天霧君でも読めていない展開だろう。風間さんは驚いている。天霧君は流石にこの動画の質では読み取る事が出来ない。それでは失礼するという発言から、本当にご退場したみたいだ。入れ替わるように、出入口から誰かが入って来たのだから。
「うっわ。怪しい」
金髪の派手な女性が嫌そうな声を発した。白いお面を被ったピエロという見た目の奴なので、確かに怪しいと思ってしまう。
「どうも。初めまして」
アルトの高さの男の声。演じているような印象がある。大きく、ご丁寧にお辞儀をしている。
「ああ。ご丁寧にどうも。沼津です」
デスゲーム参加中の天霧君、いや、この場合は沼津君か。いくら何でもマイペース過ぎる。君の心臓はオリハルコン並みに固いのか。そう訴えたい。しかし場を読まない発言なので控える。新たなゲームマスターである被り者は天霧君を指す。
「さて。今回のゲームは君だけ参加してもらうよ」
まさかの指名だ。明らかに天霧君を消そうとしている。露骨過ぎる。
「僕だけ? うわーい。ありがとう。どういう感じで遊ぶのかな?」
天霧君は無邪気に反応していた。笑っていた金髪の女性は流石に心配そうな表情になっていた。
「なあ。此奴大丈夫なのか? 馬鹿なの?」
と、富脇君に言ってしまうぐらいのレベルである。
「さあな。そこは後のお楽しみとしか。正直俺らも読めねえって」
付き合いの長いはずの富脇君すら困惑していた。また、諦めていた。
「俺達は動画を見るしかないねぇ」
長いトイレを終えた爺さんの言う通りだと、私を含め、皆は中継の動画を見る。
「君にはこれを」
被り者は蹴って、拳銃を天霧君に渡した。天霧君はしゃがんで拳銃を拾う。
「生き残るために大事な人を殺す覚悟はあるかな。もしくは大事な人を守るために、自分を犠牲にする覚悟を持っているのかな?」
被り者は指で鳴らす。折り畳み式の台車が現れた。大きい木の箱を運んでいたようだ。被り者は上面にある赤い布を最初に取る。その後は固定している金具を外し、側面の木の板が倒れ、中身が判明する。それは人だ。正座になって入っていた。背中まである茶色の髪。黒い生地に明るい色の花々の刺繍。中継を見ているため、少々分かりづらいが、加茂さんだろう。
「大事にしているみたいだが、情報を流しちゃだめだ。綺麗な子はいつだって目立つ。裏の世界となると、余計にねぇ」
被り者はねっとりとした声を出していた。近くにいる派手な女性が露骨に嫌そうな顔になっている。
「素直に来てくれたよ。君が危ない目に遭っているという情報を報せたら、無言でついて来てくれた。愛しているからこそ。ああ。実に感動的じゃないか」
加茂さんは現在女装中だ。ガタイを隠している。仕草はどうにかできる。ただし声はどうにもならない。両声類ではない。ボイスチェンジャーはいずれバレる。そうなると声を発さないことが選択肢になった。というかそれしかなかった。事情を知らない被り者は実に楽しそうに加茂さんを触っていた。間接的に見ているので、何処を触っているかは不明だが。
「違和感なく持ちこめるってのもある意味才能やなぁ」
風間さんは誰かに拍手を送るような仕草をし、携帯を出した。
「ええ。風間です。集合地点は会議で伝えたBポイント。あとは分かりますよね?」
誰かとやり取りをしていた。盗聴の可能性を考えているのか、色々とすっ飛ばしている。殴り込む。
「じゃあ。やっちゃおうかな」
天霧君が笑っているように聞こえる。拳銃を両手で持つかと思われたが、そうではなかった。いや。様子が分からなくなったのだ。カメラが壊れたのか、いきなり彼らが映らなくなった。私達(警視庁側を除く)も驚いているが、チャット欄にいる奴らも驚きの言葉が羅列している。
「何かのトラブル?」
派手な女性に聞かれたが、私には分からないので傾げるしかない。
「風間! とりあえず移動させればいい!?」
大きい足音と共にスーツ姿の髭が似合う男性が入って来た。風間さんはうるさそうにする。
「同期やからってタメかいな。俺の方が上なんやけど。まあ。今更やけど」
警察関連は基本的に上下関係の強いところだ。怒る人がいてもおかしくない。風間さんがただルーズなだけだ。
「とりあえず頼むわ。井上と富脇は俺と一緒に突撃。ほな行くで」
返事をする暇もなく、すぐに空き家から出て、車に乗り込む。カメラが壊れて以降、私達は動画の向こうにいる皆の状況を知らない。作戦の詳細を知っているわけではない。強引にゲームを止めさせる。それが作戦の最終目標であることを聞かされているぐらいだ。
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