第16話 一般人異能力者の素直な言葉
風間さんから資料を受け取って、軽く目を通す。私達が使う動画サイトで流れているわけではないみたいだ。裏の世界が使う会員サイトらしいところで流している。気の毒に「忘却デスゲーム」シリーズの作者が最初の容疑者候補だった。きちんとビルの管理者に許可を取って撮影をしており、出演者に報酬を渡していたため、あっさりと解除したらしい。作者さんはマジで運がなかったと思いながら、両手を合わせる。
「……」
加茂さんと風間さんからの視線。気にしない。気にしない。スルーして、続きを読む。奥多摩の使われていない建物で、かつ、人がいない地区でゲームを行っていたらしい。証拠はいくつかあるが、ただ人が使ったというだけで、隠滅はほぼやっている状態なので、手掛かりというものは見つからなかったようだ。探ってくることを予想していたことが分かる。参加人数は七人で、カメラを通して、ゲームマスターは彼らを見て、色々と説明などを行っていたと書かれている。一人が生き残って、望みを叶える。典型的なサバイバルゲームだ。ノベルゲームのあれを連想してしまうが、色々と問題が起こってしまうため、思考を一度止める。
「おもろいわぁ。いっだ」
加茂さんが風間さんに何かしたらしい。こちらに被害があるわけではないので、引き続き資料を読んでいく。裏世界というと、マフィアや銃を想像する。有名なゲームで派手に暴れた経験を持つが、現実世界でやろうとは思わない。金。銃。コネ。繋がり。全てが絡まり、厄介なことになることぐらい、私でも理解できるからだ。命がいくつあっても足りない世界。それが裏世界なのだと考えている。それを前提にして考察をしていきたい。
「なんで脛を蹴るんや。足癖わっる」
「すまない。生憎俺は育ちが悪い」
「嘘付け」
加茂さんと風間さんが漫才をし始めた。私は思考の海に漂い続ける。参加者は何かをしたのだろう。裏世界の住人に手を出したか。或いは商品や金絡みでトラブルを起こしたか。その他が理由で連れてこられたと考えた方がいいだろう。裏世界の金の流れがゲーム中にあるということは、賭けがあった可能性が高い。
「これが映像なんやけど。ああ。勿論グロイところはカットしとる」
風間さんがノートパソコンで実際の映像を見せてくれる。いくつもの知らない言語がチャットに流れている。金をかけるようなところもある。まるで人の死を遊んでいる。そう感じ取れる会話が流れている。運営側は淡々としているのか、予定と休憩時間などを報せる程度しか、チャットをしていない。感情というものがない。これほど運営と視聴者の乖離があるものなのだろうか。
「素直に言ってええんやで」
その言葉に甘えさせてもらう。
「運営側と視聴者側の熱量に大きい差があるのは初めて見ました。楽しませるところがないと言いますか。淡々としているんですよね。殺しだから熱もへったくれもないと思いますけど」
そもそも運営側が依頼を引き受けていると想定すると、さっさと殺した方が早く済むはずだ。エンターテイメントなんて求めていないと、動画で何となく分かってしまう。視聴者側が依頼主で、ゲーム参加者が何かしたからこそ、殺せと叫んでいる。よくある流れだ。いや。よくあってたまるか。思い切り台パンしたいが、前に二人がいるので我慢をする。
「依頼者。実行者。二つを同時に詳しく調べておかんとなぁ。やり慣れているプロとなると、かなり厳しいかもしれへんしぃ」
「そうですね。こちらも戦闘に強い奴を送ります」
「あんたが行けばええやんか」
まあ確かにと思ってしまった。
「いえ。俺は心理戦というものに弱いですから」
加茂さんの台詞に説得力が全くない。ごり押し出来るだろうに。
「どーにかなりそうやけどな。まあええわ。次の話し合いはまた今度な」
風間さんも同じように思っていた。そして話し合いはここで終わりとなった。風間さんが見えなくなったので、加茂さんをさり気なく見る。強いはずの加茂さんが断っている。そうなると、別の誰かが助っ人として参加することになる。果たして誰なのだろうか。まだ会っていないのか。
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