第15話 委託業務

 大学での英語の授業はハードだ。高校生時代よりもレベルが上がっている。読み書きは勿論だが、会話を重点的に行うためだ。その一環として、スピーチを行うことになったわけだが、幅が広すぎて悩んでいる。先生よ。縛りを付けて欲しかった。


「スピーチのネタ、どうする?」

「どうしようか」


 仲の良い人達と共に、ネタ出し会議を食堂で行ったものの、進展がなく、一時間後に解散した。サークルにバイトにと、皆大忙し。勿論私も例外ではない。


「こんにちは」


 八王子にある伊能警備会社に行って、近くのイベント会場で短時間の仕事を済ませる。その後は会社に戻って帰宅する流れだったのだが……。


「井上、延長できるか」

「ふえ? え。ええ。出来ますけど」


羽織とジーパン姿の加茂さんの誘いで残業確定となった。残業代を貰えることは把握している。あとは仕事内容だけだ。単刀直入に聞く。


「ところでこれからどういった仕事を」

「警察からの委託業務だ」


 警察からの委託業務となると、相当な危険度を持つ仕事に違いない。このまま突撃する可能性もあり得るだろう。


「案ずるな。今日はその話し合いをするだけだ。サブカルに詳しいと、遠藤から聞いたからな。色々と意見を出して欲しい」


 心を読まれていた。いや。私の顔にガッツリと出ていたからだ。カードゲームやっている時はポーカーフェイスが自慢なのに、こういう時に限って出るとは……修行が足りていなかった。


「珍しいわぁ。加茂が女の子と絡んどる」


 気怠いという印象が強い男の声。関西弁。少なくとも、伊能警備で聞いた覚えがない。


「風間さん。お疲れ様です」


 加茂さんが頭を下げた。関西弁の風間さんとやらを見る。眼鏡をかけている、灰色の髪の毛を結んでいる、長身の男と言ったところか。シャツの裾が出ており、襟が雑になっている。


「警視庁異能捜査課の風間聡と言います。よろしゅうな」


 証拠も見せてきたので、納得はしている。しかし……こういうラフな格好が警視庁の人間だとは、私もまだまだ勉強不足なのだろう。


「井上ひかりと言います」


 互いに名乗ったので、面接を受けた空間に移動する。加茂さんはやることがあったので、私がお茶を出す。ペットボトルの茶を入れただけだが。そして席の位置は二人と向かい合う形となっている。圧が凄い。


「井上さんは知っとる? 半年前の不審死事件」


 私が着席した途端に、風間さんから質問を受けた。不審死事件と言われても、ピンと来ない。


「東京都の奥多摩に六人の死体。港区に一人。死因はバラバラ。とある配信動画の展開、位置と合致したからこそ、発見できた事件やな」


 続く風間さんの簡単な説明で、例の未解決事件だと理解した。全国に流れたニュースなので、地元にも届いている。犯人を捜すために、伊能警備に委託したのだろうか。


「捜索の協力ですか」


 とりあえず聞いてみた。勘だが、恐らく違うだろう。


「いや。二度目の事件を防ぐ」

「二度目ってことは……もう既に動き始めてると?」


 風間さんが静かに頷いた。つまりは肯定だ。一度目の事件は未だに解決していない。そもそも犯人が自由に動けているから、二回目を起こそうとしている。素人の私がどこまでサポートできるのかがとても不安だ。とりあえず……落ち着くためにお茶を飲んだ。

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