第10話 本気を出した戦い

 辞書などによると、結界というものは清浄な領域と、普通の領域或いは不浄の領域を区切る役目を持つらしい。同じように異能の結界も、狭い感覚で区切りを付けることも可能だ。今回の作戦はそれをメインとして使う形になる。即時に五枚の区切りを作る。


「おいおいマジか」


 欠点は処理数が多くて、負担が大きく、ひとつでもミスったらおしまいであることか。普段なら躊躇するが、これで勝てるというのなら厭わない。ウルフハント頭領からはだいぶおかしい選択肢を取っていると見られているみたいだが。頭が滅茶苦茶痛いから、笑顔になれないが、出来る限り笑う。


「あなたが言ったでしょ。本気出せって」


 男の口角が上がる。楽しそうに笑っている。


「違えねえ」


 ウルフハントの男はメリケンサックを外した。爪が伸び始めている。鋭いナイフと化している。獣のように身体能力が高くて強い者がいたという話を聞いたことがある。獣人という名で呼ばれていたとか。大神彰という男はその要素を引き継いでいる。私と身体能力の差が浮き出ているのもそこから来ているだろう。


「行くぜ」

「来いよ」


 結界に罠の類はない。防ぐだけの壁でしかない。痛みをただひたすら耐えて、反撃のチャンスを狙う。


「しゃあ!」


 引っかくというより、斬撃に等しい。一枚目の壁が壊れた。前のような火力はないが、何かあるに違いない。後ろに下がって、壁を追加……いくら何でも素早すぎる。二回目の攻撃で二枚目の結界の壁が壊れた。連続でやられたからか、とんでもなく痛い。


「三枚目!」

「させない!」


 少しだけ動きが止まった。二枚目から三枚目の距離を長くしているから、少し移動をする必要があるからだろう。数少ない結界を使った攻撃をする。男がいる現在位置。狙うところ。その他諸々を考慮して、細長い直方体の結界を作る。ただ配置するだけではない。


「あぶね!?」


 結界が伸びる。避けられてしまったが、当たっていたら気絶をしていたはずだ。何回かやればいける。あとは私が耐えられるかどうか。


「ホント油断出来ねえな。これだからタイマンは最高なんだよ」


 戦闘狂の要素があった。笑うところではないだろうに。呆れてしまうぐらい、本当に悪党の頭なのかと思ってしまう。


「ウルフ。熱くなり過ぎだ」


 誰かの声でその熱が冷める。背後からの攻撃。そこまで甘く見られていたとは思ってもみなかった。これぐらいの火力は普通に結界でどうにか出来る。頭領戦で貼った結界はいくつか消えてしまうが、仕方のないことだ。


「防ぐか」


 氷のように冷たい声。異能は逆に火を扱う代物。大神彰の顔を見ると、嫌そうにしていた。全く別の人物がやったものだ。


「誰」


 見ないと分からない。後ろを見る。染めた緑が入った黒色のオールバック。細い目に細い眼鏡。冷たい印象を持つ、中華服を着たコスプレの人に近い。


「牛鬼。そう名乗っているよ。嫌われてはいるが、今回の作戦の上司たる存在が私だ」


 つまり敵が二人増えたことになる。しかも挟み撃ちの状態になっている。非常にマズイ。ここからどう切り抜けるかを考える必要が出てきてしまった。下手したらここで死ぬ。

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