第9話 戦闘開始

 結界は防御系の異能だ。少年漫画雑誌で見た結界使いのように、攻撃手段が豊富というわけではない。基本戦法は相手を疲れさせてドスンする。誰得か分からない。絵面が地味すぎる。それでも戦うしかない。私はボクシングスタイルを取っている白髪の男を見る。


「おらあ!」


 粗暴な男が真っすぐに殴り込んできた。メリケンサックという拳にはめて、打撃力を強化する類の武器を装備している。まともにくらったらひとたまりもないため、結界を貼って、防御をする。


「いっ!?」


 予想よりも遥かに打撃力がある。結界が破壊され、受けられなかった分が脳に響く。衝撃で後退りをする。並大抵の物理攻撃を凌げる結界が壊れたことを踏まえると、目の前の男は身体能力を上げる異能を持つと考えるべきだろう。


「ははっ。予想以上に面白い女だな!」


 男は笑いながら、何発ものパンチを出してくる。ひとつひとつが重い。冗談ではない。こちらは必死で防御に専念しているのに、ダメージを喰らっている。受ければ受けるほど、私が不利になる。


「こっちはどうだろうな!?」


 上からの攻撃、踵落とし。真正面を守ることだけしか出来ないと思われているのか。舐められている。怒りが湧いてくる。私は荒々しい声をあげる。


「舐めるな!」


 結界は立方体の形を基本としている。頭を守ることだって可能だ。普通に結界を貼って凌ぐ。やはり結界は壊れる。防げなかった分が頭に行き、痛みが走る。泣きたくなる。しかしここで弱みを見せてはいけない。


「何度も防ぐか。やるじゃねえか」


 だからここで笑って見せる。少し余裕があると相手に誤解させることが目的だ。


「それはこっちの台詞だよ。結界が壊れるなんて、生きていて初めてだよ」

「ははっ。互いに初めて同士だな。くっそ固い防御系異能は初めて見た」


 数秒の沈黙。男の口が開く。


「女。名前は」


 いきなりの質問に戸惑ってしまう。戦闘中にやることではないだろうと。


「井上ひかりです」


 何故か男は噴き出す。


「ぶはっ。なんで丁寧に言うんだよ。まあいい。俺も名乗る。ウルフハント頭領、大神彰だ」


 私は本当にヤバイ奴と対面していた。リーダーとぶつかる。それは流石に予想外である。


「……?」


 ウルフハント頭領は私を指す。意図が分からないので、傾げる。


「こっからガチでやるからな。てめえも本気出せよ」


 いつものただ結界を貼っていただけで見破られていた。確かに奥の手はある。しかし問題があるのだ。どうやって隙を作るか。試行錯誤でやるしかないだろう。

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