第8話 強敵らしき男と対面
安全な場に逃げた方がいいと考えてはいるが、現実はそう簡単にはいかない。シェルターのような役割を持つところはない。また、場所が出入り口付近ではないため、そこまで移動する必要があるわけだが、距離的に誰かと遭遇して、ジエンドとなる。正直ただの物理攻撃なら結界の異能でどうとでもなるわけだが、他人を無視する前提の話である。そういう胸糞の悪い展開は嫌いだ。
「とりあえずこれで当分は凌ぐことが出来ますけど」
異能を使う霊電子、世界にある魔力みたいな見えない物質。効率よく使うサポートの存在の霊電子精霊。それを使ったとしても、長くて三十分程度だろう。女子中学生二人が憧れの瞳で私を見つめているが、あまり期待しないで欲しい。
「はい。一応……警察には報せたのですけど」
意外にもしっかりとしていた。隣の子がこくこくと頷く。
「来るまでかかると思います。占領しているのは有名な強盗集団、ウルフハントですから」
アナウンスをしていたウルフハント。都内でも有名な強盗集団の組織名だ。高級路線の店を襲撃して、物品や金を奪う。死亡者は出ていないが、それも時間の問題だと言われている。少々引っ掛かるところがあるものの、気にしている余裕はない。
「気を付けてください」
可愛い女子中学生。初対面の私に気を遣ってくれてありがとう。フロアマップ上では建物の二階の真ん中にいる。服や雑貨を扱うフロアなのか、先ほどのように女子中学生がいたりする。金銭的価値がないから、遭遇はあまりしない。隠れている人の周辺に結界をいくつか貼る。
「そろそろ……か」
ある程度異能を使ったら、私もどこかに身を潜めた方がいいのかもしれない。疲労した状態で鉢合わせなんてしたら、無事では済まない。
「よお。女」
そう思っていたら、二階のエスカレーター前でヤバイ奴と遭ってしまった。逆立てた白い髪。長細い足と腕。ギョロ目と悪人面。タンクトップにダメージジーンズ。アナウンスの声と同じ。間違いなく殺される奴だろう。
「これ以上変なことをしたら容赦しねえ」
確実にここで戦闘が始まる。身構えてみるが、何故か男はスマホをポケットから取り出した。
「あ?」
男はガラの悪い声を出す。
「てめえかよ」
不機嫌な態度になった。舌打ちをこっそりしている辺り、相当嫌な人物とやり取りしているのだろう。
「定期状況報告。細かいのは俺の好みじゃねえよ」
上司らしい人物が電話のやり取り相手のようだ。電話をしながら、私を見ている。場慣れしている。
「異能のガキと遭遇した」
まだ酒を飲める年齢ではないが、ガキではなく、一応成人しているのだが。
「戦闘をやれだ? 直接任務に邪魔してねえじゃねえか。大体まだ片付けていねえ警備ロボがあるだろうがよ」
日本の治安が悪化したことで、戦闘が可能な警備ロボットの配置が進んでいる。催涙弾。スタンガン。捕獲ネット。その他諸々の道具を持ち、効率よく使うため、犯罪をするためにロボットを破壊する必要がある。上司よりも、目の前の男の方が現場を良く知っている。
「障害になるだ? その線は薄い。俺達に対して、攻撃をひとつもしてねえんだぞ。やり返されることに警戒してな」
粗暴な男にしか見えないが、頭は良いみたいだ。考えを読まれている。いや。経験を積んでいるからこその思考か。
「ああ。上司の命令には逆らうつもりはねえよ」
男は電話を切った……と思ったら、別の誰かにかけている。
「リーダーとして命令を下す。強盗に専念しろ。結界使いの女に手を出すな。直接俺がやる」
静かに指示を出して、電話を切って、私を見る。相手はある程度の歴があるはずだ。戦闘経験ほぼゼロである私がどこまでやれるのか。正直不安しかない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます