第二章 強盗集団 ウルフハント

第7話 ウルフハントの宣言

 大学に少し慣れてきた。自分で考えて取った講義を受けて、小さい警備のバイトをして、資金を稼ぐ日々だ。そのお陰で、四月最後の連休にある同人誌即売会の買い物が思いきり出来る。


「すみません。これ下さい」


 というか実際ガッツリ出来た。BLジャンル五冊。産業革命時代のようなファンタジー作品一冊。作家さんが新しく始めたという百合ジャンルのもの。他に欲しい物もあったが、既に売り切れていた。この辺りは諦める。時間を見る。午前十一時五十分。お腹の空き具合を踏まえると、そろそろ食べても良い頃合いだ。ショッピングモールにあるフードコートで軽く食べて、家でのんびりと読もう。


「うわ」


 そう思ってフードコートに向かったのだが、たくさんの人で賑わっていた。当たり前だ。連休なのだから。そして外から何も見えない鞄に入れておいて正解だった。見ず知らずのオタクではない他人に見せられる代物ではない。


「照り焼きハンバーガーセットひとつ」


 財布と相談して、ハンバーガーチェーン店にした。適当に頼んで、一人用の席で静かに食べる。喋る相手がいないので、十五分で完食する。指定場所にトレイを置いて、さっさと帰ろうと思った矢先だった。電話がかかってきた。


「ひかり、今どこにいるの?」


 母の声。暇だからかけてきたのだろう。


「ショッピングモール。いな駅近くにある」

「それなら買って欲しい物があるんだけど」


 何となく予想はしていたパシリだった。


「人気のある茶菓子を買ってきて欲しいの。お母さんが欲しいって言ってて、東京にいるひかりなら買えるかなって」


 私の祖母のリクエストらしい。いな駅近くの茶菓子となると、メイプル印のクッキーだろう。だいぶ人気のある店だと記憶している。この時間帯になると、売り切れの商品が出始めるはずだ。そのまま伝える。


「お母さん、売り切れあると思うよ」

「あらまぁ」


 特に気にしていない様子だ。のんびりとした声だから分かる。


「大丈夫よ。そこまで拘りないし」

「そうだった」


 そう言えば私の祖母は好き嫌いというものがなかった。不幸中の幸いだ。特に困るというわけではない。祖母のこともあるので引き受ける。


「分かった。その頼み、引き受けた。それで郵送とかどうすんの」

「後でメール送るわ。ドラマが始まっちゃうから切るね」


 そう言って、母は電話を切った。さて。新たなミッションが出来た。今すぐにメイプル印のクッキーに急ごうと、歩き始めた時、爆発音が耳に届く。


「何があった」

「さあ」


 周辺の人々はスマホで情報を探し始めている。気のせいだと買い物を続けている人もいる。経験上、そういった選択はよくない。数秒の差でも状況が変わってしまうことを、あの時に経験しているのだから。


「聞こえてるかあ? 俺達、ウルフハントがINAショッピングモールを占領したぁ! 政府に金の要求をした! 害ある行動をしたら、即、ブチ殺す!」


 天井からのアナウンス。チンピラのような男の声が中に響く。それは恐怖の時間が始まる合図のようだった。

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