第4話 オタク女子、決意する

 翌日から大学の授業が始まる。とはいえ、あくまでも必修科目と呼ばれるものだけであり、選択できる単位などは体験をしてから決めるのだそうだ。寧ろ選択の幅が広く、悩んでしまうものだ。


「井上、楽単取った方がいーよ」

「スケジュール見てから」


 選択単位のひとつである教養の美術で会ったお隣の女性(水泳で茶髪になった、肩幅が広めのしっかり者である)と共に、パソコンの画面と睨めっこである。


「うん。バイトとかも考えないといけないから、それも正しいか」


 バイトという言葉を聞き、私は昨日の出来事を思い出す。誘われていたあれをどうしようか。何もしないという拒否権があるようだが。


「バイトによったら、取るところ変わるから悩むよね」

「そういう安立さんは候補とかあったりするの」


 因みにお隣さんは安立さんである。安立さんは困ったように笑っている。


「実はない。土地勘がなさ過ぎて」


 地方からやって来た人だった。これは地味に嬉しい。


「同じく」


 無意識に出た私の一言に笑い声が漏れる。


「ふふっ。だよねー。適当にサイト登録して、探すしかないかな。あ。でもさ。井上さんって、優秀な成績取らないといけないんだよね?」


 安立さん。痛いところを突かないで欲しい。頭を抱える問題なのだから。来年の奨学金獲得のことを考えると、バイトはガッツリやらない方がいいことぐらい、理解している。


「先輩も過去にバイトやり過ぎて留年しちゃったってこともあるみたいだから、誰でもバイトはほどほどなんだろうけど。あーそれでもうちは高校禁止だったから、思いきりやりたい!」


 嘆いている。気持ちは痛いほど分かる。しかしここは大学の図書館だ。ジェスチャーで伝える。上手く通じたみたいだ。


「あ。ごめん。生活に慣れてからバイトかな。体調崩して単位取れないとかシャレにならないしさ。そろそろ行くね。次の授業があるから」


 安立さんはそう言って、次の授業に行ってしまった。さて。実はツテというか、お誘いがある。警備会社という体力面はとてもハードな奴。どうしようか。受けるだけ受けておくべきか。


「この子って昨日のイケメン君と一緒に大学から出て行ったよね」

「そうそう。遠目だったからさ。分からなかったけど、顔立ち整ってるよね」

 

 どこからか会話しているであろう女性二人の声。暫くは面倒ごとになりそうだ。加茂さんは何故大学に突撃したのだろうか。というかどうやって大学を知ったのかが疑問だ。頬に熱が溜まりつつある。これはいけない。必要最低限の授業を申請して、図書館から出て行く。


「ふぅ」


 カフェテリアでコーヒーを飲んで落ち着かせる。人がまばらで良かった。思考の海に漂うことが出来る。バイトとはいえ、相互の条件が反り合わなかった時点で不採用となる可能性がある。加茂さんの推薦(?)があるとはいえ、上司にとって私が利益になり得る人材とも限らない。当たっては砕けろ。落ちた時はバイトを地道に探せばいい。そうしよう。

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