菊池②

「きみみたいに住む場所すら困っている若者が多いって話は長年言われているのに、一向に十分な対策がとられないじゃないか。住宅に関しては空き家を活用するなんてのがようやく出てきたけれど、ホームレスの数はずっと減少してるって、ほんとに調べてんのかよってデータを目にしたりもするしさ。ただ、たとえ本気で取り組んでも、その人の経験や気持ちは他人にはわかりきれないし、弱い立場の人たちの暮らしを良くするには、当事者が直接政治に関与していくしかないと思うんだ。それに、地方では議員のなり手がなくて、定員割れしてるところまであるし、きみのように今現在仕事をしていない、特に議員に少ない若いコがやれば、ちょうどいい。我ながら名案だと思うんだけど、って、なあ、聞いてんのかよ?」

 昼前、まだすいた時間帯の、庶民的な中華料理店で、用瀬は注文した大盛りの五目チャーハンを、これでもかというくらい口いっぱいにかき込んでいる最中だった。

「聞いてますよ、ちゃんと」

 嘘ではなく、本当に彼はしっかり話に耳を傾けていた。興味があったのではなく、菊池の機嫌を損ねて、用瀬のぶんの食事の代金を払うのはやめにするなんてことにでもなったら困るためだ。

「政党のメンバーでもびっくりしたのに、議員だなんて、さっきと一緒の答えになっちゃいますけど、俺そんなに頭良くないから無理ですよ」

「謙遜じゃなくて実際にそうだとしても、いいんだよ、最低限の常識さえあれば。知事や市長といった行政を運営する側を目指すなら、それなりに賢くなきゃさすがに難しいだろうけど、議会の議員の仕事は、基本的に国民や市民を代表して知事や市長がやろうとしている政策に疑問をぶつけたり、チェックをすることでさ。あとは賛成か反対か票を投じるとか、議員立法で提案もできるけど、自分がわかるやりたいことだけすればいいんだし、サポートしてくれる人もつくから、頭が良くなきゃ駄目だなんて心配する必要はない。むしろ、へたに知識が豊富で率直な疑問を抱かなかったり、エリートで庶民と感覚にズレがあるから、多くの議員は評価されないんだよ。それと、うちの党に入ったら、必ず選挙に立候補してほしいっていうんじゃないんだ。党のメンバーみんなでいろいろな問題をどうするのがいいのか考えるんで、出馬する人としない人がいていい。長いこと権力の座にいると腐敗するからという理由で、民主的な国では普通、議員の任期は五年くらいと短く設定されている。でもそのせいで、結果が出るのにどうやっても時間がかかる問題の多くが先送りされてしまう事態も発生しているし、俺が今考えている党の在り方は、立候補して当選した人は目の前の重要課題に力を注いで、活動するのは一期か二期までとし、そうやって辞めた後や、将来立候補する意志がある、議員にはならない、などの残りのメンバーみんなで、長い時間を要する問題を中心に継続的に話し合う。その継続して話し合うところを一番しっかりやっていこうと思ってるんだ」

「……へー」

 単に頭がおかしいか、冗談みたいな話をするのが好きなだけの人間かと思ったら、やけに具体的でちゃんと考えている菊池に、用瀬は面食らった様子で言葉に詰まった。そして、悩んだ。

 どういう態度や返事をするのがいいんだ?

「まあ、うちの党に入るか、すぐに結論を出さなくてもいいよ。多少のカネはあるから、これから一緒に行動してみない?」

「と、言いますと?」

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