名塚③
真弓たちはNPOの事務所に帰ってきた。
「あ、そうだ。常賀商事から返事あった?」
範子が真弓に問うた。
「はい、ありました。今日出発する直前に電話で、お断りだそうです」
「ふーん。理由とか、何か言ってた?」
「複数の人をいっぺんに雇うのは、うちでは難しいとのことです。あと……」
「あと?」
「そういう馬鹿げた申し出はやめたほうがいいんじゃないかって。みんな忙しいんだからと」
「……そう」
範子は落ち着いていたが、真弓はなぜかこわばった表情になった。
「ふざけんなよ! お前んとこ、毎年新卒を何人もいっぺんに採用してんじゃねーか! 馬鹿げただと? 口の利き方、気をつけろや! コラ、ボケ!」
やっぱり……。
その声を部屋の外からこっそり聞いている真弓は息をのんだ。
範子は腹の立つことがあると、時間のあるときを見計らって部屋に一人こもり、どうやら思いきり不満を口に出すことで発散しているようなのだ。気づかれたらどうなるかわからない怖さから、その様子を目で確認したことはないが、漏れ聞こえてくる声だけでも普段の彼女からは考えられない。まるで二重人格だ。
範子は頭も容姿も性格も良く、男女関係なく誰もが憧れを抱いてしまうような人間だ。とはいえ完璧な人などいないし、精神のバランスを保つためと自覚して、ちゃんとコントロールできていればいいけれど、あれが何かの拍子に表に出てしまったらと思うと、真弓はぞっとするのだった。
何より、範子が成登の言っていたような「おっそろしい女」でないことを願うばかりである。
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