名塚①

 小峰真弓の弟は中学生。彼女と歳は十も離れているが、お互い仲は良いほうだと感じているきょうだいだ。二人とも積極的というよりは控えめな性格である。

 その弟の成登はアイドル好きだ。それはまったく構わないのだけれども、真弓が引っかかるのは、彼の気に入る女子が大抵ブリッコなタイプである点だ。いずれ交際するようになったり結婚するときに、変な相手を選んで痛い目に遭うんじゃないか心配で、本人に直接そう話してもいる。

「俺、思うんだけど、やっぱり、ブリッコっつーので嫌われてるコは、そこまで性格悪くないし、問題ないんじゃねえ?」

 ある夜、自宅のリビングで、きょうだい二人だけでくつろいでいた際に、成登が真弓に言った。

「女って、全体的にほんとブリッコな感じのコが嫌いじゃん。で、なんでかっていうと、そういうコは大概男と女の前で態度が違う、だから性格が悪いってことなんだろ?」

「まあね」

「でもさ、自分の彼氏や好きな相手を取られたっていうならともかく、そうじゃないんなら、別に態度が異なろうがどうしようが、ほっといて気にしなきゃいいじゃん。演技で可愛いコぶってんなら、そのうち男にバレて愛想尽かされる確率も高いだろうし、やたら腹を立てるのはおかしいよ。しかも、芸能人で明らかにキャラでブリッコをやって、ギャグみたいになってて、男に人気があるわけでもない人まで嫌うじゃんか。そこまでいくと、ほんとに意味わかんねえし。要するに、はけ口だと思うんだ。気に食わないのは間違いないんだろうけど、不満の発散場所みたいなもんでさ。だいたい、世の中にはおっそろしく意地悪だったり怖い女がいて、本当は絶対にそっちのほうが嫌いだろ。けど、悪口を言って、もしそれが本人の耳に入りでもしたら困るから、そういう奴のぶんなんかも含めてブリッコな感じのコをけなして、気分を晴らそうとしてると思うんだよな。ブリッコな感じのコには、たとえ悪口を言ったことが本人に伝わっちゃっても怖くないし、最悪構わない。だから、そういうコたちはそこまでひどい人間じゃないってことなんじゃねえの?」

「うーん……」

 考えたこともなかった視点で、真弓は回答に詰まった。

 ブリッコなコにもいろいろいるし、今の言い分が正しいとは思えなかったが、鋭い意見かもなとも感じたのだった。

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