2章

第17話 ラミューの陰謀と黒の色皇魔術師(仮)

大きな戦いが終わり、皆ラミューの元へ集まる。


ラミューは横たわり、ラルディに首を支えてもらっていた。


血だらけだった服は元通りになっている。ラルディの魔術が効いたのだろう。そして、青く澄んでいた髪は黒髪になっていた。


「ごめん……」


と急に謝るラミュー。そういえば手に触れる前にもそんなことを言っていた。


「あぁ?なんで謝んだよ」


とラグナム。


「私は命を握られていた。それでノーブル王国に侵入し、計画に加担していた」


「はぁ?そ、そんなわけないだろ……」


レクタルはまだ信じきれていないようだった。


「私はあらゆるところから魔力を奪って、あの魔人に与えていた。そして自分の魔力も。この5年間、私があの魔物を育てた。3体の分身体はあなた達(色皇魔術師)をバラけさせるための自作自演。私は北に行くことで、攻撃を貯めさせる時間を作った。そしてあなた達(色皇魔術師)の魔力を減らしたのも私。その魔力は魔剣士に分散して付与させた」


(だから無数の魔物は弱く感じていたのか……)


極わずかの魔力で無数の魔物を倒せたのはそういうことだったらしい。一つの謎が解決した。


「ラミュー先生にお聞きします。人型の魔物の攻撃を受け止めたのは何故ですか?命を握られているのなら、そのような行動をした時点で殺されていたはずです」


他の色皇魔術師はラミューが攻撃を受け止めていた所を見ていない。目撃者はこの中で僕だけだ。だから率直に聞いてみた。


「私はあの時、攻めてもの報いで自らの命を絶とうとしていた。この事件を引き起こしたのはあくまでも私だから。それを見て『奴』は殺さなかったのだろうね」


「てめぇ、ふざけんな!」


ラグナムは歯を食いしばり、拳を振り下ろそうとする。


「1回落ち着け、ラグナム」


レクタルが腕を抑えて止める。


「それでノーブル王国を破壊することが『奴』目的だった。だけど、想定外のことが起きた。私が倒れていた時、キサラ君によって私の魔術を奪われたの」


ラミューは僕に目線を向ける。


「だからお前、ラミューの技を……それに髪が黒に……」


「でもコイツは青髪じゃねぇぞ。ちゃんと黒だ」


「どういうことでしょうか……」


黙り込んでいたラルディも顎に手を当てて言葉を発した。


「というかコイツに触れたら、俺たちの魔術も取られちまうんじゃないのか……!」


「それは嫌だな……。こんなクソガキにとられてたまるか」


言いたい放題な2人。遠回しに避けられているような気持ちだ。


(はぁ……)


心の中でため息が出る。


「でもキサラ君が私の魔術を奪ってくれたおかげで、あなた達3人(色皇魔術師)の魔力が戻って、ノーブル王国を守ることが出来た。それに私の命も助かったの」


「それってどういうことですか……」


「キサラ君が私の命を救ったからよ。私に設置されていた爆弾を取り除いてくれたと言った方が正しいかな」


僕はラミュー先生の魔術を奪ってしまったことが悪い事だと自覚していた。


だが、結果的にファインプレーだったようだ。そのおかげでノーブル王国を救ったのだから。


――でもその爆弾はもしかして


「え、じゃあ……僕は死ぬんですか」


不思議と何も怖くなかった。だが、人を助けて死ねるのなら本望だ。


悔いは無い。なんにもできなかった前世よりも気楽である。


「ハッハー!ざまぁみやがれ!」


「おいラグナム。こいつはノーブル王国を救った張本人だぞ」


「うっせぇ!魔物の攻撃を止めたのは俺たちだろうが!」


「まあそうだな。今までありがとう。キサラ君」


「いや……その……勝手に殺さないで貰えませんか……」


何故か大はしゃぎだった。ラルディも呆れた顔をしている。


結果論ではあるが、何も悪いことはしていない。僕はただの善良な人間のはずなのだが……。


「キサラ君は死なないよ。私に触れた時、私の魔術を奪ったと同時に、元凶となった爆弾を分解してくれたから」


ラミューは手を地面につき、上体を起こす。下がっていた口角も上がり、声のトーンも1段階上がった。


「はぁ?」


「良かった!コイツが敵側じゃなくて良かった!神様仏様……!」


何故かニヤニヤしていたラグナムは表情が「コロッと」変わる。レクタルは地に膝をつき何やら空に懇願していた。


自分の体内には特に異変はなかった。恐怖心を感じなかったのはその爆弾を処理していることに気づいていたからだと思う。


「あの……ちょっといいかな。話を戻すけど、キサラ君って一体何者なの?宙を浮いた時、自ら『色皇魔術師』って言ってたけど髪色は変わってないし……」


「え、そうなの?」


「この鏡で見てみて」


ラルディは空間から手鏡を取り出して、僕に向ける。


「ほんとだ。でもちょっと黒が濃くなったような気がするけど……」


「いやキサラ君の髪色は何も変わってないと思うよ」


「ああ、そうですか」


長い間、見てきたラミューが言うなら間違いないだろう。


「となると、このガキは『黒の色皇魔術師』なんじゃないのか」


「でも黒の色皇魔術師なんて聞いたことねぇよ」


とにかく謎が多い。自分が黒の色皇魔術師(仮)だということ。それにラミューに取り付いていた黒幕の正体。分からないことだらけだ。

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