第16話 無双

「よ、よく分からんが、どうにかして、こいつを止めてくれ!」


情けない声量でレクタルは懇願する。


「あぁ?攻撃が効かないコイツをどうやって倒すんだよ」


とラグナム。


「僕に任せてください」


と何も考えずに言ってしまった。何故ならこの魔物を倒せるイメージが沸いているからだ。


「魔黎の結界デーモン・レイ・バレリア」


と左手の平を魔物に向け詠唱すると、魔物は動かなくなり、ピクリともしなくなった。


――だが


「グォォォォォ!」


またしても雄叫びを上げる人型の魔物。行動を封じる魔術が力技で破られたのだ。


「なるほどねぇ。まずはこの魔力を何とかしないとって訳か」


自分と魔物の魔力差は10倍程だろうか。この魔力差を埋めるのにちょうど良い魔術がある。


「魔力吸収ディアボロ・アソルビメント」


と詠唱し、手の平を魔物に向ける。


「魔力が減っていく……」


と呟くレクタル。


「俺たちの攻撃が通らなかったのは、やっぱりこの魔力のせいだったって訳か」


と関心しているラグナム。


魔力吸収ディアボロ・アソルビメントは名前の通り、魔力を吸収する魔術のことである。


保有している魔力量が上限に達していると魔力を吸収出来ないと勝手に解釈していたのだが、その場合、魔力を自動的に外に逃がしているらしい。


つまり、今の自分は上限のない『掃除機』と化している。


「ヴァァァァァァァ!」


人型の魔物はどうやら自身の魔力が減っていることに勘づいたらしい。


先程まで遠距離戦で戦っていたのに対して、たった今近接戦にシフトチェンジした。


人型の魔物は剣を空間から取り出す。


「魔剣士……?」


予想外の行動だったが、剣は大振りで遅い。クラスメイトの方が速いと思う。


僕は横に逸れて交わす。当たり前のように、何度も襲ってくる。


右手の平を魔物に向け続け、魔力を減らしつつ、避けるの繰り返し。


相手の動きはどんどん鈍くなっていく。目を瞑っていても避けられそうだ。


「まあ…こんなもんでいいかな」


そんなこんなで相手の魔力は自分と同じくらいの魔力になった。途中からあまりにも当たらないので実際に目を瞑って避けていた。


ただただ避けていただけだが、気づいたことがある。剣に魔力を帯びているということだ。


つまり自身と同じ魔剣士であることは間違いないのだが、魔物は魔物だ。人間らしいと言えば人間らしいのだがそうじゃないとも言える。


(もしや……魔人石か……)


タツヤとの話を思い出す。


もし中身が人間でコレが魔人石を食べた姿だとしたら、誰かに手駒として使われているかもしくは王国に恨みがあって自分で食べたか……。


ひとまず保護するのが最優先だろう。


でもどうやって保護すれば良いのか。多分無理だ。この状態を解除する魔術なんて頭の中に見当たらなかった。恐らく中身人だろうけどごめん。


「魔黎の結界デーモン・レイ・バレリア」


再度詠唱するとやはり効いた。魔物は力ずくで脱出を試みるが何も出来ないでいる。魔力も消費し尽くしたようだ。


「なあ。加勢しないのかよ」


「うっせぇ!黙って見てろ!」


ラグナムはいつものように声を荒らげる。ラグナムは遠回しに手出しをするなと言っているようだ。


「グゥッッッア゛ッッッッッ!!」


魔物は最後の力を振り絞り抵抗する。


その間に、僕はラミューの杖を空間から取り出す。


(せっかくだから組み合わせてみるか……)


右に杖、そして左に剣をたずさえる。


「混合魔術 冥黒インフェルノ・スクーラ天蒼パラディーソ・セレスト」


混合魔術は今適当に考えてつけた名前だ。


杖から発出される青空のような光の魔術と剣から発出される漆黒の魔術は組み合わせることにより、渦を巻き、人間が反応できないような速度で人型の魔物に直撃した。


人型の魔物はお湯に溶ける砂糖のように塵となって消える。


人型の魔物の魔力は完全に無くなった。王国の周りに湧きまくっていた魔物も消滅している。


闇雲だった空が晴れ、太陽の暖かい光が差し込んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る