第15話 色皇魔術師誕生

僕は全て目の当たりにしていた。


ラミュー先生の体が貫通し、血が宙を舞っていたこと、そして今、他の色皇魔術師3人が魔物の攻撃を受け止め、交戦状態ということを。


「キサラ君!ラミュー先生の所に向かってあげて!」


「でも……任せていいのか!?」


「大丈夫だから早く行って!」


僕はレイサに催促されて、道中の魔物を切りながら、ラミュー先生の元へ向かう。


街のことは一旦忘れよう。国王は娘を重要視するように、今はラミュー先生を重要視したいのだ。


ラミューが倒れている上空では、色皇魔術師の3人が何とか堪えていた。


「ラミュー先生!!」


喉が潰れるほどの声で叫んだ。僕はラミュー先生の所にたどり着く。


お腹から血が溢れかえり、服に染み付いていた。今にも死にそうな状態だ。


「死なないでください!ラミュー先生!」


ラミュー先生の顔を覗き込むと、涙が無限に湧いてくる。


両目から溢れ出る涙は、ラミューの傷口にぽたぽたと落ちて行く。今まで泣いたことなんて前世でも1、2回くらいしかないのに。


「キサラ……君……ご……めん……」


ラミューも目に涙を浮かべながら、言葉を振り絞り、僕に手を差し出す。僕はすかさず手を握り締めようとする。


――その瞬間


「グァッッッ!」


ラミューの指先に触れた瞬間、今まで体験したことの無いような頭痛が生じた。


電流が手を伝い、頭にそのまま流されているような痛みだった。今すぐ死にそうなレベルだ。


瞬時に理解できない、大量の情報が頭の中に流れ込む。次第に耳鳴りが僕を苦しめる。前世でこんな頭痛を引き起こしたことはなかった。


(僕はここで死ぬのか……?僕はここで死ぬか……?)


あまりの痛さに、1点のことしか考えられなくなる。心の中でまだ死にたくないという気持ちが、無意識に現れていた。


せっかく病気から解放され、新しい人生が始まったんだ。死にたくないに決まっている。


突発的な頭痛は1分ほど続き、ようやく収まった。この1分は今までで、1番長く感じた1分だ。


――その時、交戦状態だった上空では。


「魔力が……戻った」


「よく分からないけど押し切るぞ」


「分かってんだよっ!」


上からラルディ、レクタル、ラグナムが言う。


何故か魔力が元に戻った3人の色皇魔術師は、魔物のレーザーを徐々に押し返していく。


「「「ハァァァァッッッッ!!!」」」


それぞれ呼吸を合わせる。すると上空で、鼓膜が破れるくらいの爆発音が轟く。


魔物の強力な攻撃を相殺し、ノーブル王国を守ることに成功したのだ。


「ラル。お前はラミューの治療をしろ。俺たちでコイツを止める」


「分かりました!」


レクタルが直ぐに指示を出し、ラルディはそれに従い、地上に降りる


「ブウォォォォォォォォォォォォォ!」


空気が振動する程の雄叫びをあげる人型の魔物。


先程のレーザー攻撃で全ての魔力を消費したように思えたが、まだ余剰分が残っていたようだ。


今まで動かなかった魔物が素早く空中で移動を繰り返し、レクタルとラグナムに攻撃を繰り返していた。


2人はノーブル王国に攻撃が行かないよう、王国の反対方向に転移し、避けながら魔物の攻撃を防いでいた。


炎血サングレール・フィアーマ


その際、隙を狙って攻撃を試みるレクタル。


魔物の素早い動きを、帯のような火が追いかけ、囲み、炎症した。


だが魔物はビクともしていない。


「魔力が戻ってもきかねぇのかよ……」


「どけ雑魚!てめぇは攻撃を防いでろ!」


ラグナムはレクタルの肩を、崖から突き落とすくらいの強さで押す。


黈霧フィーネ・ネビア


と詠唱すると、霧が現れ、一つ一つの粒子が細やかに黄色く光る。


細かい粒子は魔物に向かって一直線上に加速し、次々と爆散していく。


――だが


「う゛ぅぅぅう゛ぅぅぅう゛ぅぅぅ」


やはり、人型の魔物は無傷だった。むしろさっきより元気そうだった。


「おめぇもじゃねぇか!」


レクタルは待ってましたとばかりに怒鳴る。


「コイツ、魔人石を食いやがったな」


「何だよそれ!」


「知らねぇのか!そいつを食うと魔力が増加するやつだ!だから俺たちの攻撃が通ってねぇんだよ」


「じゃあどうしろってんだよ!」


「今は耐えるしかねぇだろ、考えれば分かることだろうが!」


魔物と戦いながら、会話でも戦うレクタルとラグナム。


―――――――――――――――――――――


治癒グアルジオーネ


ラルディは両手の平を横たわっているラミューに向ける。すると傷口はみるみると回復していく。


「あなた……魔剣士の方ですよね……何故ここに……?……大丈夫ですか?」


とラルディは倒れてうずくまっている僕に気づき、心配そうな声のトーンで言葉を発した。


その声に反応し、僕はゆっくり膝をつき、立ち上がる。目を瞑り、空気を肺に入れ、大きく深呼吸をする。


「色皇魔術師……か」


と言い、ゆっくりと宙へ浮く。


「ちょっ……えぇ……?ど……どういうこと…?」


ラルディは分かりやすく困惑していた。


人型の魔物と対峙していたレクタルとラグナムも、戦いながら、僕を一瞥する。


「どうゆう事だ……」


「あぁ!?」


どちらも理解が追いついていないことが分かる発言だった。

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