第13話 4人の色皇魔術師

他の生徒はセキハの方を向き、話を聞いている。だが僕は、外が気になって何も聞いていなかった。やはり、『何か』がおかしい。僕はよく目を凝らして校庭を見回す。


(学校の結界にヒビが……)


透明な結界は通常見えないのだが、ヒビが入ったことで結界の存在を視認できるようになった。つまり今までダメージを受けないというシステムはこの結界によって生じていたということが分かる。休暇以外で外に出られなかったのもこの結界のせいだ。


(ということはノーブル国王が結界を……)


寿命を縮めてまで、僕たちの訓練の環境を作り上げていたとは思いもよらなかった。


僕は急いで教室を脱出する。

その際、セキハが僕に何か叫んだ気がするが、返答している余裕はなかった。


校庭にでると、学校を囲んでいる結界の中心からひび割れ始めていた。ノーブル王国を囲んでいる結界も同様にひび割れて行くのが確認できた。直ぐに結界が解けていく訳ではなく、ゆっくりと消滅していくようだ。だがよく見ると少しづつ消滅するスピードが上がっている。


もし空を飛ぶ魔物がいるのならば、今頃外周の街はめちゃくちゃになっているかもしれない。そんな魔物はいないことを祈り、今は指示が出るまで、結界を眺めることしか出来なかった。


「キサラ、どうしたの」


セキハは飛び出した僕を追ってきていた。


「ノーブル国王が死んだ。ほら、ヒビが入って、結界が消滅していく」


手先で視線を誘導する僕。


「どうするの……これ」


セキハは放心状態だった。1年持つか持たないかとは言っていたが、寿命が早まったのは間違いなく学校に展開されていた結界のせいでもあるだろう。


のんびり結界が消える様子を見ている訳には行かない。


(何か出来ることはないのか……)



ここに来るまでわかったことがある。走って教室を出た時、明らかにいつもより遅い気がした。スターターセットの効力が切れているようだ。ラミューの話しの辻褄は合っていた。結局スターターセットは訓練のみの賜物となってしまったのだが、常人には考えられない動きを体験出来たのはいい経験になったと思う。


「……!」


(何だこの魔力は……)


僕は結界の外にいる何かを察知した。北、東、西、南にきっちり分かれている、強大な魔力を感じる。


一方、セキハは結界の方を見上げているだけで、何等変わった様子は無い。きっと色皇魔術師もこの魔力に気づいているはずだ。


――1分ほど経つと、レビアによる校内放送が行われた。


〇結界外に魔物が多数存在すること


〇その魔物を魔剣士学校の生徒&魔法学校の生徒は協力して倒し、ノーブル王国の外周に位置している街を守ること(レビアが転移させる)


〇凄まじい魔力を持ったものが(北、東、西、南に)存在しているこということ


〇それを色皇魔術師に任せるということ


の計4点を簡潔に説明をした。


現在僕がいる魔剣士学校は外周には簡単に行けない。ノーブル王国の中心には城があり、それを街で囲んでいる。魔剣士学校は比較的城の近くに位置しているため、普通に走って、外周にたどり着くには無謀な時間が掛かる。スターターセットを使用すれば15分ほどでたどり着けるだろう。しかしスターターセットはもうない。仮にスターターセットがあったとしても街の中の使用は禁じられている。(緊急事態ということでその時は許可されるかもしれないが)


そのことに関してはレビアが転移させてくれるらしい。薄々気づいてはいたが、レビアは転移のスペシャリストだ。その人の顔と魔力を把握するだけで、王国の外周くらいまでなら、転移させることができるとのことだった。


そんな人が何故魔剣士学校に担任として着いているのかは不明だが、とにかく転移に関しては色皇魔術師に匹敵するかそれ以上と言っても過言では無い。それにレビアはこの学校が開校してから全てのクラスの担当をしていたと聞いた。つまりOB含め、魔剣士学校生全員を戦場に送り出すことが出来る。


放送の1分後、次々に転移が始まり、僕も転移された。


――その頃、城の屋上では色皇魔術師が集まっていた


「ついにこの時が来てしまったのですね……」


「俺はもうちょっと生きるとは思ってたんだけどな。無念だ」


「で、どうするラミュー」


上から桃色の『カーリン・ラルディ』、赤色の『ラルフェスト・レクタル』、黄色の 『アドリル・ラグナ厶』が次々に発言する。


「一旦作戦を立てよう……。ん……これは……?」


ラミューは何かに気づく。


「(北、東、西、南の)4方向に強大な魔力を持ったやつが現れたな」


色皇魔術師の4人は強大な魔力の存在を確認する。


「ちょうど4人いんだから、一人一人散らばればいいだろ。もたもたしてる暇なんかねーんだぞ」


「私もそのつもりだったから、理解してるよラグナム。私は北に行く」


「じゃあ私は南で!」


『じゃあ俺は東だ』

『じゃあ俺は東に行く』


「おい。被ってんじゃねぇ!」

「お前だろ被せたのは!」


レクタルとラグナムの子供の喧嘩が幕を開ける。


「はぁ……」

ラミューは呆れたような顔つきで二人を見つめる。


「レクタルは東、ラグナムは西。これでいいわね」


ラミューは独断と偏見で決める。2人も逆らうことなくいやいや納得した。


「じゃあ頼むよ」


ラミューは北へ転移する。


「わぁーかってるよ。ったく」


気だるそうにセリフを吐き捨て、ラグナムも続けて転移した。


「絶対死ぬなよ。ラル」


残ったレクタルはラルディに優しく声をかける。


「大丈夫です。人の心配をするより、自分の心配をしてください。それにあなたもラルですよね」


ラルディはレクタルに対して、ジョークを交えながら返答をした。


「今はそんなのどうでもいいっての。じゃあ行ってくる」


レクタルも転移した。


「お母様。私王国のために頑張るよ」


外の景色を見ながらラルディは首に身につけられたペンダントを握りしめ、空に呟いた。そしてラルディも転移した。





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